| 開催日 | 2025年3月20日 |
| ゲスト | 野中ともよさん |
| コメンテーター | 稲本 正 |
野中ともよさんを迎えた対談配信の最終回は、これまで積み重ねてきた議論を土台に、「経済」「金融」「文明」「命」というテーマを横断しながら、これからの社会のあり方について深く掘り下げる回となりました。
現場で鍛えられた判断力と、時代を越える視点
冒頭では稲本さんが、野中さんのこれまでの歩みを振り返りました。
NHK時代の海外取材やスポーツ番組、1988年のソウルオリンピック取材など、野中さんは常に「現場」の最前線に立ってきました。
印象的だったのは、生放送中に回線トラブルが発生した際のエピソードです。
放送事故寸前という緊迫した状況のなかで、野中さんは瞬時に判断し、番組全体を落ち着かせました。稲本さんはその姿を「同じ状況に二度と出会わない人の冷静さ」と評し、現場経験が生む判断力の重みを語ります。
経済合理性の先に見えた「限界」
話題はやがて、野中さんが経済番組や企業経営の世界へ関わっていった背景へと移ります。
日本企業は長らく「効率」と「合理性」を武器に成長してきましたが、国際競争の激化のなかで、そのモデルが限界を迎えつつあることを、野中さんは早くから感じていました。
1989年のベルリンの壁崩壊以降、世界の市場構造は一変します。
膨大な労働力が一気に組み込まれたことで、日本の製造業が築いてきた仕組みは、低コストで再現されるようになりました。
その結果、勤勉さだけでは太刀打ちできない時代が到来したのです。
金融が支配する世界で、何が起きたのか
議論はさらに、金融の力が社会をどう変えてきたのかへと踏み込みます。
野中さんは、金融工学が軍事や核関連の数理と近い構造を持つこと、そして複雑な金融商品が社会に大きな歪みをもたらす可能性を、かなり早い段階で察知していました。
その危惧が現実のものとなったのが、サブプライムローン問題です。
野中さんは、ものづくりと環境技術に強みを持っていた日本企業が、金融の論理によって翻弄されていく過程を、自身の経験を通して語りました。
「対立」から「共感」へ―文明の転換点
番組後半、対話はより根源的なテーマへと向かいます。
稲本さんは、「これからは理屈や制度だけでは人は動かない」と語ります。人々が本当に納得し、共に進もうとするためには、新しい世界観が必要だというのです。
野中さんが示したキーワードは、「命の共感力」でした。
私たちは皆、一つずつしか命を持っていない。その事実を起点にすれば、勝ち負けの対立構造ではなく、「一緒に生きる」視点が見えてくる・・・そんな考え方です。
共生進化という、生物からのメッセージ
「共生進化」という言葉についても、あらためて確認がなされました。
進化は競争だけで進むのではなく、互いに利益を得る「相利」の関係によって支えられてきた。
植物と昆虫、微生物と環境――生命の歴史は、多様性と協調の積み重ねです。
自然は偶然に成り立っているのではなく、絶妙なコミュニケーションの上に存在しています。
その事実を理解せず、人間中心で資源を使い続ける社会構造から、そろそろ卒業すべきではないか。そんな問いが静かに投げかけられました。
子育てが教えてくれる「命のリアリティ」
終盤では、子育ての体験を通じた「命の実感」が語られました。
命は常に変化し続け、その変化に気づき、寄り添うことで育まれます。
それは理念や理屈ではなく、日々の観察と愛情によってしか得られない感覚です。
この「変化を受け止める力」こそが、社会にも必要なのではないか。そんな示唆が、対話の中から自然に浮かび上がってきました。
これからの「共生進化ネット」へ
最後に野中さんは、稲本さんの視点を「物理」「植物」「文明論」、そして日本の時間軸を重ね合わせた稀有なものだと評価し、「共生進化ネット」をさらに深めていく意義を語りました。
稲本さんもまた、「こうした視点を持つ人は、決して特別ではない。環境さえ整えば、誰でも育つ」と述べ、ネットという自由な場の可能性に期待を寄せます。
シリーズはここで一区切りとなりましたが、次回以降も新たなゲストを迎え、対話は続いていきます。
「金融の時代」の先にあるものを、私たちはどんな感性で選び取るのか。
その問いを胸に残す、最終回となりました。
