NHKを“外して”見えた世界—武内陶子さんが語る“野生の旅”と、日本の伝え方

開催日2025年3月21日
ゲスト武内陶子さん
コメンテーター稲本 正

年の瀬が近づく12月中旬。共生進化ネットの対談シリーズに、フリーアナウンサーの武内陶子さんがゲストとして登場しました。
今回のトークは、武内さんの“今”から始まり、旅・文化・国際コミュニケーション、そして「人間が人間であること」の核心へと広がっていきます。


「紅白司会」は、望んでもできない仕事だった

対談の冒頭で話題に上がったのは、武内さんの仕事の幅広さ。NHK時代、さまざまな現場を経験し、なかでも印象深い出来事として語られたのが紅白歌合戦の司会でした。

「芸能の世界をずっとやってきたわけでもないのに、なぜか紅白の司会を担当したんです。なぜ選ばれたのかは分からないけれど、任せていただいて…」

“狙って取れる仕事ではない”。だからこそ、巡り合わせに感謝しながら、真正面から向き合った—武内さんの言葉には、そんな誠実さが滲んでいました。

「NHKが大好き。でも—」組織を外して見えたもの

武内さんは、NHKという組織について「守られていた」と語ります。
その中で多くの経験ができたことへの感謝は揺るぎません。だからこそ、言い切ります。

「私、NHKが大好きなんですよ」

しかし同時に、“NHKの3文字を外した自分”と向き合う必要を感じたとも言います。
予測不能なことが増える時代に、看板ではなく“自分の力”で対応できるようになりたい。NHKに残る選択もあったけれど、あえて外に出たのは—

「自分の能力を、もう一回開発しないといけないと思ったんです」

そして今の生活を、武内さんは少し笑いながらこう表現します。

「放たれた野生みたいな感じ」

20年ぶりに「自分のために出かける」時間が来た

武内さんが語ってくれたのは、旅に出られなかった理由でもあり、旅に出られるようになった理由でもありました。

忙しい仕事、そして子育て。
休日にどこかへ行くことは「時間もお金ももったいない」と感じてしまい、なかなか踏み出せなかった。

でも今、子どもたちは成長し、中学生と20歳に。
「ママ、行っておいで」と背中を押してくれるようになったと言います。

料理や家のことは、冷凍食品も上手に活用して回していく。
“完璧にやる”ではなく、“回る形を作る”。その発想が、生活を少しずつ自由にしていきます。

1泊2日で気づいた「時間って、ある」

旅に出て初めて分かったこと。それは「時間がないようで、実はある」という感覚でした。

たとえば東京から4時間の場所でも、朝出れば昼には着く。
行ってみると山の中に美術館があり、人のつながりが生まれ、出来事が連鎖していく。

武内さんは、その“展開”の面白さを語ります。
予定通りにいかないことがむしろ豊かで、そこに出会いがある。まさに、組織を外して得た「予測不能への耐性」が、旅で育っていくようにも感じられました。

稲本さんが言う「いい常識」は、体験から育つ

ここで稲本さんは、体験の重要性をさらに深い視点で語ります。

見に行くこと。
土地に触れること。
人に会うこと。

それらは単なる娯楽ではなく、“いい常識”を育てる行為だ、と。

視点が増えれば、人の痛みや背景が見える。
その積み重ねが、争いを減らし、助け合いを育てる土台になる。

「経験しないといけないんだよね」

対談の空気が、このあたりから一気に“文明論”へと広がっていきます。

モネは日本を真似た。なのに日本は自信がない?

印象的だったのは、日本文化に対する稲本さんの指摘です。

日本の美意識は、海外に強い影響を与えてきた。
モネが日本庭園を研究し、自ら庭を作って描き続けた例は象徴的です。

武内さんも、父とパリを訪れた体験を語りました。

「行って初めて分かったんです。どうしてあの色が出るのか。どうしてあの絵になるのか」

現地の景色、石畳の痛み、街の汚れ、歴史の層。
それらを“見て”初めて、理解が身体に落ちる。

そして稲本さんは言います。
日本人は、いいものを持っているのに、なぜか自信を持てず、外を追いかけてしまう、と。

インバウンドの時代に必要なのは「伝える力」

渋谷のスクランブル交差点が、体感で「ほとんど外国人」に見えるほど、世界が日本に押し寄せている。
武内さんはその実感を語ります。

さらに稲本さんの話は、「日本人は海外へのプレゼンが下手」という指摘へ。

島国の文化では“なんとなく分かり合える”。
でも国際社会では、主語・目的・意図を明確にしないと伝わらない。

日本語は主語が省略されやすく、その曖昧さが誤解を生む。
だからこそ、文化を掘り起こし、整理し、再構築し、相手に伝わる形で提示する必要がある。

「女性が働きやすい国」は、単純じゃない

武内さんは、アメリカに住んだ経験も語ります。
日本の育休制度について話すと、驚かれたというエピソードが印象的でした。

「そんなに休むの?」
「帰る場所があるんだね」

合理的な社会にも、別の厳しさがある。
「進んでいる=幸せ」とは限らない。だからこそ日本は、日本の良さを活かしながら整えていけばいい—武内さんの視点はとても現実的で、説得力がありました。

専門だけでは語れない。これから必要なのは“全人的な力”

終盤、話題は教育へと広がります。
稲本さんは、理系のトップ層でさえ「夢を語れない学生」がいる現状に触れ、専門性だけに偏る危うさを語りました。

幅広い経験を持ち、社会とつながり、変化に対応できる柔軟さ。
それはAIには代替できない、人間の領域だ。

武内さんも強く頷き、「これからも自分のフィルターを通して伝えていきたい」と言葉を結びました。

まとめ:外に出て、体験して、伝える—それが“共生進化”

NHKという看板を外し、“野生”になった武内陶子さん。
旅に出て、文化に触れ、人と会い、経験を重ねる日々は、個人の挑戦であると同時に、これからの社会に必要な姿勢そのものにも見えました。

見に行く。体験する。伝える。
その循環が広がった先に、共生進化の未来があるのかもしれません。