競争より“共生”が進化を動かす?—香り・緑の葉・科学の観察から見えた「未来を選ぶ力」

開催日2025年3月22日
ゲスト太刀川英輔さん
コメンテーター稲本 正

「未来を選ぶ力」。
テーマは一見むずかしそうですが、話の入口は意外にも「四国の檮原の写真」から始まります。そこから、自然観察、香りの意味、進化の仕組み、そして“遠い未来をどう考えるか”へと、一本の線でつながっていきます。


四国の檮原から始まった「自然が残る場所」の話

冒頭で映されたのは、四国の檮原の写真でした。稲本さんはその場所を訪れた経験があり、若い頃に四国へ赴任した友人に誘われて足を運んだことを振り返ります。

そこには柚子があり、杉が多く、自然がしっかり残っていました。稲本さんは「こういう場所には可能性がある」と感じたそうです。
この“自然がちゃんと残っている”という感覚が、のちの「変異と選択」「共生進化」という話題へつながっていきます。

太刀川英輔たちかわえいすけさんの原点:建築だけでは街の問題は解けない

稲本さんの問いかけに対して、太刀川さんは大学院時代の経験を語ります。建築を学び、大学院では隈研吾さんの研究室に所属し、現地のプロジェクトではチームリーダーとして度々現場へ入り、泊まり込みで活動したそうです。

さらに、農家民宿に滞在しながらエコツーリズムにも触れたといいます。

その中で太刀川さんが強く感じたのは、「建築だけで街の問題は解けない」という現実でした。
地域には香り、物産、観光、ブランディングなど、いろいろな要素が絡みます。だからこそ、建築以外のデザインも独学していこうと思った―この話は、のちの「観察と思考の体系」へつながります。

変異には“パターン”がある—進化は発想のヒントになる

会話は「変異と選択」の話題へ移ります。稲本さんは、変異は自然の中で見つけやすい一方で、自然に接しないと気づけないと指摘します。

太刀川さんもこれに応じ、変異には一定の「パターン」が現れること、それが発想法にも応用できることを語りました。
生物が多様な種へ分かれていったのも、まさに変異が積み重なってきた結果です。

つまり、進化の見方を学ぶことは、単に生物の話ではなく、アイデアの生まれ方を理解することにもつながっているのです。

雪の中の白い花が教える「発見は人によって変わる」

印象的だったのが、稲本さんが語った雪国の体験です。雪の中で白い花を見つけたとき、強烈な感動があった。しかし雪国の人にとっては、毎年見慣れた光景で、そこまで感動しない。

同じ現象でも、育った環境や経験によって“発見”の強度は変わる
これは自然観察だけではなく、仕事や創作、日常の学びにもそのまま当てはまる話だと感じました。

香りは“人間のため”ではない—植物が生き残るための戦略

話はアロマや植物の香りへ広がります。稲本さんは、雪の中で花が咲くような状況では昆虫が飛びにくいため、受粉のために強い香りが必要になると説明します。

香りは「癒し」や「人間のためのもの」ではなく、もともとは植物が自分の生存のために獲得した性質です。
そして人間は、その成果を“借りている”とも言えます。

この視点は鋭いです。太刀川さんも、自然の現象から学び、デザインに取り込む姿勢と通じると応じていました。

「競争で進化する」は思い込み? 共生と中立が圧倒的に多い

ここから核心に入ります。稲本さんは、進化というと「競争」のイメージが強いものの、最近の研究では協力(共生)や中立が圧倒的に多いと語ります。

たとえばライオンが狩りに成功するのは一部で、多くは失敗します。
生態系は常にバチバチに争っているわけではなく、むしろ多くの時間は“中立”で回っています。

昆虫と植物のように、蜜をもらう代わりに受粉を助ける関係も典型です。
こうした視点から稲本さんは「共生進化」という言葉を用いているのだと説明しました。

包括適応度が示すもの:助けることは“損”とは限らない

さらに話は、ハミルトンの「包括適応度」に及びます。
自分が不利になる行為、場合によっては命の危険がある行為でも、共通の遺伝子を持つ個体がより多く生き残るなら、遺伝子全体としては残り得ます。

太刀川さんの考察も興味深かったです。人間は数世代先・数世代前ですら把握が難しい。だとすれば、生き物が「相手が血縁かどうか」を正確に判断できない状況は多く、結果として**“助けておく方が得”になる局面が生まれやすい**のではないか、という見立てでした。

利他的・利己的という区別は、人間の側が勝手に付けたラベルに過ぎない――この指摘は、物事の見方を少し変えてくれます。

葉っぱはなぜ緑なのか—「逆を選び続ける」自然の不思議

もう一つ印象に残ったのが「葉はなぜ緑なのか」という問いです。
太陽光の中で量が多いのは緑なら、効率だけで言えば黒の方が有利に思えます。しかし植物は緑を反射する仕組みを選び続け、長い時間が経っても黒い植物が主流になっていません。

“合理的に見える選択”とは違う道を、自然は選び続けることがある
この違和感こそが、観察の出発点なのだと感じました。

科学の観察は、デザインの観察に似ている

太刀川さんは、科学者が適応を理解するために行う観察(形・機能・制約・系統・行動・社会性など)を例に挙げます。
そして、椅子をデザインするときにも、構造、素材、ユーザー、売れるかどうかなど、多角的に観察しますが、それは科学の観察と思考に似ていると語りました。

つまり、科学の観察体系は、デザインや仕事の意思決定にも活かせるということです。
「観察の種類を増やす」ことは、発想だけでなく判断力も鍛えてくれます。

いちばん怖いのは「短期の選択圧」—未来を関係ないにしないために

終盤は、現代社会への問題提起でした。
稲本さんは、四半期の成績や株式市場など、短期の評価が強すぎることで、50年後の世界や、遠い地域の人々、他の生物を「関係ない」と切り捨ててしまう構造が生まれていると指摘します。

環境問題が解決しない最大の原因は、目の前の成果ばかり追って、現象を理解し予測を立てる力が軽視されていることだという話にもつながりました。

太刀川さんも、遠い未来のことを考え、それをどう現在価値化するかは難しいが、だからこそやらなければいけない、と強く同意していました。


まとめ:共生進化は「未来の選び方」を問い直す話でした

今回の対話は、進化の話でありながら、実は私たちの生き方や社会の設計そのものへつながる内容でした。

  • 自然に触れることで「変異」が見えてくる
  • 変異にはパターンがあり、発想に応用できる
  • 香りや緑の葉のように、自然は“理由のある選択”をしている
  • 競争だけでなく、共生や中立が進化の大きな力になっている
  • 短期の選択圧に流されると、未来を誤って選びかねない

最後に稲本さんは、これから「ネットワークをどう作るか」「教育をどう変えるか」へ話をつなげたいと語り、次回への布石を置いて締めくくりました。