「正解が一つ」だと思っていませんか?—進化思考の“螺旋”が、教育と未来の見方を変える

開催日2025年3月22日
ゲスト太刀川英輔さん
コメンテーター稲本 正

今回のテーマは『進化思考』の核心でもある「螺旋的に進化する」という考え方です。話は図解の説明から始まり、宇宙の運動、教育の問題、建築とデザインの本質、そしてAI時代の学びへとつながっていきました。


進化は“円”ではなく“螺旋”で進む——変異と選択圧のイメージ

今回の中心は、『進化思考』の新しい版に出てくる「螺旋の図」でした。
図の左側には変異が枝のようにたくさん広がり、右側では選択圧がかかって、だんだん中心へと収斂(適応)していきます。さらにそれを立体的に捉えると、進化は平面的なループではなく、ぐるぐる回りながら前へ進む“螺旋運動”だというわけです。

太刀川さんはこの図を、人の思考にも重ねて説明していました。
まずは可能性を広げる(発散)けれど、同時に自分でツッコミを入れて修正していく(収束)。いわば「一人漫才」のように、発散と収束を行き来することが、思考を前へ進める力になるという話でした。

地球も止まっていない—私たちは“螺旋”で宇宙を進んでいる

稲本さんは、螺旋という発想を宇宙の運動に重ねます。
地球は自転しながら太陽の周りを公転していますが、実は太陽自体も銀河の中心の周りを高速で移動しています。つまり地球の軌道は「同じ場所を円盤のように回っている」のではなく、太陽を追いかけながら進む“螺旋”になっているという説明でした。

ここが面白いポイントです。
止まっているように見えるものほど、実は動いています。そして「変わらないように見えること」こそ、思い込みである可能性があります。

「答えのある問題」ばかり教える教育が、なぜ危ういのか

話は自然に教育の問題へ移ります。
よく「答えのある問題ばかり教えるのはよくない」と言われますが、その本質は、“答えが絶対に変わらない”という前提が嘘だからだと語られました。

実際、昔学んだ生物の教科書は、今ではかなり書き換わっています。知識は更新され、常識は変わります。
だから本当は、既知の答えを覚える力だけでなく、未知を観察し、探究し、仮説を立て直す力が必要になります。

気候変動のように、人類が未経験の状況に入り込んでいる今は特に、「変化に対応する学び」が必須だという問題意識が共有されました。

ラプラスの悪魔と「未来は予測できる」という幻想

稲本さんは、確定的な未来を信じる考え方として「ラプラス」に触れます。
ニュートン力学の延長で「すべての情報がわかれば未来は予測できる」という発想が生まれ、それが「ラプラスの悪魔」と呼ばれる考え方につながりました。

しかしその後、複雑系や不確定性の理解が進み、未来は完全にはわからないことがわかってきました。
それでもなお、教育や社会の意思決定の場には「絶対の正解がある」という発想が根強く残っている。稲本さんは、教育委員会で長く関わってきた経験から、その変化の難しさを語っていました。

建築・デザインは「答えが決まらない」世界—だから変異が必要になる

太刀川さんはこの話を、建築とデザインの世界に引き寄せます。
建築には“究極の答え”があるように見えますが、現実には環境も社会も変わり続けるため、答えも変わります。建築は生き物に似ていて、状況という選択圧を読み解きながら適応した形をつくる必要がある、という視点です。

さらに重要なのは、アートやデザインの世界では「新しくないものは模倣だ」と言われることです。
つまり表現の世界では、最初から変異することが前提になっています。変異がプリセットされている分野で試行錯誤する経験は、他分野では意外と少ないのかもしれません。

早い段階で「自分で答えを出す体験」をさせるべき理由

今回の対話の中で、強く繰り返されていたのがここでした。
建築でも研究でもアートでも何でもいいので、できるだけ早い段階で「自分で新しい答えを出し、世の中に通してみる体験」をすることが重要だという話です。

稲本さんは子育ての経験を交え、予想外の出来事(双子の誕生や移住など)が人生の前提を変え、その中で強い選択圧がかかることで、人は変化しやすくなると語っていました。
太刀川さんもまた、早い段階で「自分で決めなければならない」と気づけたことが大きかったという話をしています。

偶然(変異)が起き、選択圧がかかり、適応していく。まさに人生そのものが、螺旋的な進化だという感覚が伝わってきます。

AIとスマホが“世界のつながり方”を変えた—教育は次の段階へ

終盤では、スマートフォンとAIの話題が出ました。
スマホの中には辞書もカメラも検索も入っていて、昔なら“現地へ行かなければ得られなかった情報”が、バーチャルでも手に入るようになっています。

さらにAIによって、人間以外の存在(木、森、石など)を擬人化し「対話する」ことで、これまで気づけなかった搾取や偏りに気づける可能性もある、という話が印象的でした。

一方で、AIには限界もあるため、その限界を見極めながら使う必要があります。
教師の役割も「正しい答えを教える人」から、「子どもたちの探究を支え、学びを人生につなげる人(コーチング)」へ重心が移っていく、という見立ても語られました。

短期の時間軸が、選択圧を誤らせる

最後に大きなメッセージとして残ったのが、短期の時間軸で物事を見ると、選択圧の方向を誤るという指摘です。
CO2問題は何十年も前から言われていたのに、対応が遅れた。長い時間軸で観察すれば見えるはずのことが、「今起きていない」という理由で否定され、先送りされてしまう。

だからこそ、教育の段階から「最低限の基礎」を共有し、子どもたちが螺旋的に学び、変化し続けられる土台をつくる必要がある――そんな結論へ収束していきました。


まとめ:螺旋で進む世界に、螺旋で学ぶ力を

今回の対話は、『進化思考』の図解を超えて、私たちの学び方・働き方・未来の選び方そのものに触れる内容でした。

  • 進化は発散と収束を繰り返す“螺旋”です
  • 世界は止まって見えても、常に動き続けています
  • 「絶対の正解」よりも「探究し続ける力」が重要です
  • 建築やデザインは、答えが決まらないからこそ変異が必要です
  • AI時代の教育は、教えるより“一緒に探究する”方向へ進みます
  • 短期視点は選択圧を誤らせるため、長期の観察が欠かせません