千年続く話芸が、声と人生を変えた~講談師・神田香織さんが語る「語る力」の原点~

開催日2025年6月28日
ゲスト神田香織さん
コメンテーター稲本 正

2024年6月29日、共生進化ネットの配信として、講談師・神田香織さんをお迎えした対談の第一回が公開されました。
今回が初回ということで、テーマはシンプルに「講談とは何か」。日本に古くから続く話芸の世界について、歴史と背景を交えながら語っていただきました。

声が変われば、人は変わる

対談の冒頭で印象的だったのは、神田さんご自身の変化についてのお話です。
現在は張りのある声で舞台に立つ神田さんですが、もともとは声が小さく、人前で話すことが得意ではなかったそうです。

しかし講談の稽古を重ねるうちに、自然と声が出るようになり、人前で語ることができるようになっていったといいます。
講談は単なる話芸ではなく、「声を出す訓練」そのものでもあるのです。

日本の三大話芸——落語・浪曲・講談

神田さんは、日本の話芸を大きく三つに分けて説明してくださいました。

まず一つ目は落語です。
江戸時代に成立したとされ、宴席などで人々を楽しませるために生まれました。短い話の中に「落ち」があり、笑いを提供する芸能です。

二つ目は浪曲ろうきょく
明治時代以降に発展した比較的新しい芸で、派手な見せ場や節回し、三味線の伴奏とともに語られます。感情を揺さぶり、涙を誘うのが浪曲の特徴です。

そして三つ目が、今回の主題である講談こうだんです。

講談の起源は千年前にさかのぼる

講談は、三つの中で最も古い歴史を持つ話芸です。
その起源は平安時代、今からおよそ千年前にまでさかのぼるといわれています。

戦や災害が相次ぎ、人々が絶望の中にあった時代、仏教の教えや出来事をわかりやすく語って歩いたことが、講談の原型ではないかと考えられています。
のちに「不断説教」などの形を経て、次第に娯楽性を帯び、現在の講談へと発展していきました。

特に有名なのが、戦国時代などの戦いを題材にした軍記ぐんき読みです。
実際の記録をもとにしながらも、聞き手を引き込むために表現を誇張し、あたかもその場を見てきたかのように語る。そこに講談ならではの魅力があります。

流派を超えて広がる講談の世界

講談にはさまざまな流れやスタイルがあります。
史実を忠実に読み解くものもあれば、怪談や人物伝、新作講談などを手がける方もいます。

かつては流派ごとの色が強かった時代もありましたが、現在は流派の垣根を越えて学び合い、それぞれが自由に題材を選び、講談を続けているのが現状です。

女性講談師としての歩み

神田香織さんが講談の世界に入られたのは、約40年前のことです。
当時、女性の講談師はまだ数えるほどしかいませんでした。

神田さんの師匠である二代目神田山陽氏は、非常に先進的な考えを持った人物で、女性であることに関係なく、多くの弟子を育ててきました。
演劇を学んでいた女性たちが発声練習の一環として講談を学び、そこから本格的に講談師として育っていったのです。

演劇から講談へ——声の訓練が人生を変えた

神田さんご自身も、もともとは演劇に憧れて上京し、劇団の養成所で学んでいました。
しかし思うように結果が出ず、壁にぶつかっていた時期があったといいます。

そんな中で勧められたのが、日本の古典に基づいた発声訓練でした。
丹田を意識し、背筋を伸ばし、全身を使って声を出す。講談の稽古を続けることで、東北訛りのイントネーションも自然と矯正されていきました。

講談では、日本語の「語」に「勢い」と書いて「語勢(ごせい)」と呼ばれる、力強い語りを重視します。
この語勢を身につけることで、声は単なる音ではなく、人に届く力を持つようになるのです。

現代社会にこそ必要な「語る力」

対談の中では、講談の発声法が教育やプレゼンテーションにも応用できるのではないか、という話題にも及びました。

かつての教科書には、講談の一節を元気よく読む授業があったそうです。
日本語特有のリズムを身体で覚えることは、話す力を育てる上で非常に有効だといいます。

「話すことはプロの仕事である」
この視点は、教師や指導者、発信する立場にあるすべての人にとって示唆的です。

これからの講談へ

講談は古典を守るだけの芸能ではありません。
基本をしっかり学べば、漫画や小説、現代史など、どんな題材でも講談として語ることができます。

伝統を土台にしながら、時代に合わせて変化していく。
その柔軟さこそが、講談が千年もの間生き続けてきた理由なのかもしれません。

今後の予定について

対談の最後には、今後開催される講談会についても触れられました。
8月9日には指定席での講談会が予定されており、戦争をテーマにした演目も披露される予定です。

次回の配信では、さらに踏み込んだ講談の話、そして神田香織さん個人の活動や現代との接点についても語られる予定です。