人生100年時代に、何を引き受けて生きるのか~農業と地域、そして若者の未来~

開催日2025年8月17日
ゲスト枝廣淳子さん
コメンテーター稲本 正

今回の対談では、「人生100年時代」という大きな時間軸を起点に、地方の持続可能性、農業の可能性、そして次世代をどう育てていくのかというテーマが、立体的につながっていきました。


「100歳までやる」と決めることの意味

対談の冒頭で、稲本さんが強く印象に残っていると語ったのが、枝廣さんの「100歳まで活動する」 という宣言でした。

稲本さん自身、70歳を迎えた頃に「ここから先をどう生きるのか」を真剣に考え、一度すべてをリセットして、やりたいことを一からやり直す決断をしています。

「70歳を過ぎても、まだ25年ある。そう考えると、できることはまだまだある」

人生を“終盤”として捉えるのではなく、長期プロジェクトの途中として捉え直す。
この視点こそが、共生進化ネットという活動の根底にあります。

地方は「人が少ない」のではなく、「支えている」

枝廣さんが語ったデータは、非常に示唆的でした。

日本の自治体のうち、人口3万人以下の自治体が占める人口は、全国の約8%にすぎません。
しかし、それらの自治体が占める国土面積を合計すると、約49%にもなります。

つまり、

人口1割に満たない人々が、日本の国土の半分を守っている

という構造になっているのです。

東京一極集中が問題だと言われ続けていますが、実際には地方が国土・自然・資源を支え続けています。
にもかかわらず、経済が回らなければ仕事が生まれず、人は住み続けることができません。

だからこそ必要なのが、

  • 地元経済をどう回すのか
  • この町をどんな場所にしたいのか
  • そのビジョンをどう共有するのか

という、地域ごとの長期的な視点です。

枝廣さんは、こうした考え方を軸に、長年にわたって地方創生の現場に関わってきました。

7年、10年かけて向き合う地域づくり

枝廣さんが支援してきた地域は、北海道下川町しもかわちょう、島根県海士町あまちょう、徳島県上勝町かみかつちょう、熊本県南阿蘇地域みなみあそちいきなど、全国に広がっています。

特徴的なのは、関わる期間が非常に長いことです。
短くても7年、長いところでは10年以上、同じ地域と向き合い続けています。

特に下川町は、森林資源を活かしたまちづくりで知られ、映画制作や写真展、香りのプロジェクトなど、文化的な取り組みも含めた多面的な挑戦が続いています。

すべての地域の詳細を語ることはできないため、「本にまとめて伝える」という形を選んだのも、現場に深く関わってきたからこその判断でした。

農業は「温暖化の救いの女神」になり得る

話題は、枝廣さんの著書
『農業が温暖化を解決する』 に移ります。

農業は、気候変動の影響を強く受ける「被害者」です。
同時に、CO₂、メタン、一酸化二窒素などを排出する「加害者」でもあります。

しかし、枝廣さんが最も伝えたいのは、第三の視点です。

農業は、温暖化を食い止める「救いの女神」になり得る

工業は、排出量を減らすことはできても、生産と同時にCO₂を吸収することはできません。
一方、農業は作物を育てる過程そのものが、大気中のCO₂を吸収する営みです。

さらに、稲わらやもみ殻、剪定枝などを炭にして土中に戻すことで、炭素を長期的に固定することもできます。

つまり農業は、

食料生産 × CO₂回収・固定化

という、他の産業にはない役割を持っています。

農業高校で起きた「3つの質問」

全国の農業高校の教員が集まる大会で、枝廣さんは次の質問を投げかけました。

  • 農業は温暖化の被害者だと思う人
  • 農業は温暖化の加害者だと思う人
  • 農業は温暖化の救いの女神だと思う人

最初の2つには、ほぼ全員が手を挙げました。
しかし3つ目に手を挙げたのは、わずか2人だったといいます。

農業が持つ本来の価値が、当事者ですら十分に共有されていない
だからこそ、「胸を張ってCO₂を吸収していると言っていい」と伝え続けることが大切なのだと語ります。

誇りが生まれれば、希望が生まれ、次に続く人が増えていく。
これは、どんな分野にも共通する原理です。

再生型農業という新しい可能性

近年、世界的に注目されているのが
再生型農業(リジェネラティブ農業) です。

これは、土を耕しすぎず、被覆植物を活用し、土壌中の炭素を増やすことで、土そのものを豊かにしていく農業です。

土の黒さは、炭素の豊かさを示しています。
耕しすぎることで炭素が空気中に放出されてしまうため、「耕さない」ことが重要になります。

日本ではまだ知られていませんが、放棄地や里山、竹林など、実験と工夫の余地は大きく残されています。
アグロフォレストリーや、牛を活用した森林管理など、地域に合わせた方法を探ることで、新しい農業の形が見えてきます。

若者を育てるという、もう一つの柱

枝廣さんが4年前から続けているのが、
「未来創造ユースチーム」 という取り組みです。

対象は29歳以下。
最年少は小学校2年生で、小・中・高校生も参加しています。

ここで教えているのは、

  • 目的と手段を区別する力
  • バックキャスティングで考える視点
  • システム全体を見る思考法

といった、「変化を起こすためのスキル」です。

これまでに約200人が参加し、各地で
「ユースチームのメンバーです」
と名乗る若者が現れ始めています。

自分の時間をどう確保するか

最後に語られたのは、少し個人的なエピソードでした。

子育て中、枝廣さんは
夜8時に子どもと一緒に寝て、朝2時に起きる
という生活をしていたそうです。

朝2時から子どもが起きるまでの数時間を、自分の「ゴールデンタイム」とし、学びや仕事に集中していました。

人生の中で、自分の時間をどう確保するか。
それは、家族・地域・仲間との関係の中で、意識的につくっていくものだと語ります。


次回へ

今回の対談を通して浮かび上がったのは、

  • 長い時間軸で人生を捉えること
  • 地方・農業・自然を「可能性」として見ること
  • 次の世代に、希望とスキルを手渡すこと

でした。

次回は、海外の事例も交えながら、さらに視野を広げた話へと進んでいきます。
共生進化ネットは、まだ続きます。