| 開催日 | 2025年8月24日 |
| ゲスト | 枝廣淳子さん |
| コメンテーター | 稲本 正 |
これまで、人生100年時代の生き方、農業や地域の可能性、若者育成など、さまざまなテーマを扱ってきましたが、最終回のキーワードは 「システム思考」と「つながり」 でした。
世の中はなかなか一気には変わりません。
だからこそ「何を変えるべきか」「どこに手を入れるべきか」を見誤らない視点が必要になります。
問題が起きたとき、私たちは「早く答え」を出そうとしすぎる
枝廣さんは、企業経営やまちづくりの現場で役立つ考え方として「システム思考」を紹介しました。
私たちは、問題が起きるとすぐに
「どう対処するか」「どう解決するか」
を考えがちです。
たとえば、企業で人が辞めると
「また辞めた。早く補充しよう」
となります。
しかし、それはあくまで 対処療法 です。
なぜ人が次々に辞めているのか、その構造を見なければ、同じことが永遠に繰り返されます。
システム思考とは、
「問題そのものではなく、その問題を生み出している構造を見る」
ための考え方です。
誰かが悪いのではなく、「つながり」が歪んでいる
私たちはつい、
「あの人が悪い」
「誰の責任だ」
と考えてしまいます。
しかし、システム思考ではこう捉えます。
問題は、個人ではなく、要素同士の“つながり方”から生まれている
地域であれば、行政・民間・事業者・住民。
企業であれば、現場・管理職・経営層。
誰か一人が悪いのではなく、
関係性の設計がうまくいっていない ことが、問題を生み続けているのです。
枝廣さんが関わった島根県・海士町では、システム思考を使って「理想の町の構造図」を住民自身が描きました。
その図は、10年以上経った今も使われ続けているそうです。
人を責めない、自分も責めない思考法
枝廣さんが強調していたのは、
システム思考は「人を責めない」ための思考法だという点です。
企業研修でもよくあるのが、
- 問題が起きる
- 担当者や社長を入れ替える
- しかし構造は変わらない
- 同じ問題が再発する
というパターンです。
構造が変わらなければ、結果も変わりません。
だからこそ
「誰が悪いか」ではなく
「どんな構造がこの結果を生んでいるのか」
を一緒に考える必要があります。
合意形成は「全員が同じ意見」になることではない
対談の中で、印象的だったのが柏崎市での事例です。
福島の原発事故後、柏崎では原発推進派と反対派が完全に分断され、互いに話すことすらありませんでした。
そこで枝廣さんは、「原発をどうするか」という議論をいったん横に置き、
30年後、50年後、どんな柏崎を残したいか
をテーマに話し合う場をつくりました。
すると驚くことに、
目指す未来像は、推進派も反対派も同じだった のです。
違っていたのは「手段」だけでした。
この経験から学んだのは、
前に進むために、すべてに合意する必要はない
ということでした。
「どんな未来を目指すのか(パーパス)」が共有できれば、
手段が違っていても、対話は続けられます。
日本は「プラン」から始めすぎている
稲本さんは、ここで興味深い指摘をします。
日本では、
- いきなりプラン(計画)を作る
- そのプランが良い・悪いで対立する
ということが多い。
本来は、
- 私たちは何のために存在しているのか(パーパス)
- どんな未来を目指しているのか(ミッション)
- そのための手段としてプランがある
という順番で考えるべきだ、という話でした。
西洋的思考の限界と、東洋思想の可能性
対談はさらに深い哲学的な領域へと進みます。
西洋的な二元論――
人間と自然、精神と肉体を切り分け、
短期的・数値的な成果を最大化する考え方。
これは、ある局面では大きな成功を収めました。
しかし同時に、地球環境や人間関係を壊してきた側面もあります。
一方、東洋思想は、
- 分けずに見る
- 見えないつながりを重視する
- 全体としての調和を考える
という視点を持っています。
最近では、海外から禅や仏教を学びに日本を訪れる人も増えています。
むしろ、日本人のほうがその価値に気づいていないのかもしれません。
効率を追いすぎた社会が失ったもの
もう一つの重要なテーマが、孤立と孤独 でした。
効率を追い求めるあまり、
- 雑談
- 無駄に見える関係
- 回り道
を切り捨ててきました。
その結果、短期的な効率は上がりましたが、社会のレジリエンス(しなやかさ)は失われていきました。
本当に困ったときに頼れるのは、効率ではなく「つながり」です。
つながりを取り戻すことは、人生そのもの
枝廣さんは、大学院時代にカウンセリングを学んだ経験から、
人は、大切なものとのつながりを失ったときに、心を病む
という実感を得たそうです。
それは個人だけでなく、
- 人と地球
- 人と地域
- 人と社会
の関係にも同じことが言えます。
環境問題も、地方の衰退も、
つながりが断たれた結果 なのです。
熱海から始まる、新しい地域モデル
最後に、枝廣さんは今後の取り組みとして「熱海」での挑戦を語りました。
観光地として賑わう一方で、
地元の人にとっては暮らしにくく、子どもの数も減っています。
そこで、
- 市民
- 行政
- 事業者
が一緒になって、
「本当に住みやすい熱海とは何か」
を考える場を立ち上げようとしています。
もしここで、循環型で持続可能な地域モデル ができれば、
それは日本各地、さらには世界にも展開できるはずです。
次へ
次回は、稲本さんの息子さんレイ・イナモト氏をゲストに迎え、
「クリエイティビティ」と「世界とのつながり」をテーマに語られる予定です。
