| 開催日 | 2025年10月12日 |
| 司会 | 原田 伸介 |
| コメンテーター | 稲本 正 エバレット・ケネディ・ブラウン |
先日、共生進化ネットの第2回として、写真家・随筆家の エバレット・ケネディ・ブラウンさん をお迎えし、特別な茶会を開催しました。舞台となったのは、新宿・花蓮の茶室「残月」。ここに裏千家の 永江宗杏さんをお迎えし、岡倉天心『茶の本』の思想を現代に蘇らせる企画です。
単なる茶会ではなく、「音」 をテーマにした、ちょっと風変わりで、しかし本質に迫る一日になりました。
六角堂の「音」を新宿へ──録音のために朝4時の海へ
今回の目玉は、茨城県・五浦にある 六角堂の波音の再現。
岡倉天心が太平洋を望みながら思索した場所として知られる六角堂。その空気感を少しでも現代の茶室に持ち込むため、茨城大学のご協力のもと、六角堂内部での録音を特別に許可していただきました。
エバレットさんは早朝4時、波打ち際ギリギリまで機材を持って接近。
そのとき偶然にも霧が立ちこめ、まるで自然が演出してくれたような、幻想的な時間となりました。
録音にはNHKの技術による特殊なマイクセットを使用。人の耳では捉えきれない低音も含め、六角堂を満たす環境そのものを採取しました。
音の演出──湯釜の音から波音へとつながる「重ねの美」
当日の茶会では、まず茶釜の湯が静かに湧く音から始まり、そこへ六角堂の波音が徐々に重なっていくように編集した音響を使用。
「静寂だけが茶ではない。自然の音もまた茶の世界である」
──天心の書にある、そんな美意識を体験してもらうための工夫でした。
新宿の茶室という都会の真ん中でありながら、耳を澄ませば太平洋の波が寄せてくる。
そんな不思議な感覚を味わっていただけたと思います。
ドローン撮影による六角堂の掛軸
茶室に飾られた掛軸は、エバレットさんがドローンで撮影した六角堂の写真を、100年前の和紙にプリントしたもの。霧の中に浮かぶ六角堂の姿は、まるで絵巻物のよう。
表装にはインド更紗をあしらい、天心が掲げた理念「アジアは一つ」を象徴的に表現しました。
自然が生む音──海岸で見つけた「石笛」
録音の日、六角堂近くの海岸でエバレットさんが偶然拾った自然石が、なんと石笛のように音を奏でました。人工的な加工は一切なし。自然の造形が楽器となる、まさに“自然からの贈り物”。
イベント中にも実演していただき、参加者全員が驚きに包まれました。
異文化が交わるお点前──ティファニーの柄杓置きも!?
お手前を担当した永江宗杏さんは、カナダにルーツを持ちつつ、20年以上茶道を続けてきた方。社中にも海外経験豊かな方々が多く、茶室にはティファニーの柄杓置きが登場するなど、西洋×日本のクロスカルチャーな趣向が取り入れられていました。
お茶に使用した銘は「後昔」。将軍家にも献上されたほどの高級茶で、古典の香りを現代に届けるような深い味わい。今回のテーマ「時空を超えた追体験」にぴったりの銘です。
岡倉天心の思想を、現代の茶室で考える
エバレットさんが語ったのは、天心が『茶の本』を英語で書いた理由。
英語で書くことで、天心の思想がより整理され、
世界へ伝えるための視点が得られたのではないか。
天心はインドで詩人タゴールと深い交流を持ち、日本・インド・アメリカという三拠点を往来しながら、自国の文化の価値を常に世界へ問い続けていました。
「日本はアジアの博物館だ」という言葉に象徴されるように、彼は東洋美の精髄を、世界に向けて発信し続けたのです。
茶の本に息づく「自然の音」
天心は書の中で、波の音、松の葉の揺れる音、雨の音など、自然の響きが心を豊かにすると語っています。
現代の茶会では静寂ばかりが重視されがちですが、本来の茶はもっと自然の音とともにあった。
今回の「波の音茶会」は、その原点を思い出させてくれるものでもありました。
おわりに──100年前の天心の心を感じる茶会
こうして六角堂の「音」と「姿」を新宿へ運び、天心の思想を追体験する時間となりました。
考えるよりも感じる。
形式よりも、自然がもたらす豊かさを味わう。
そんな天心の心を、参加者の皆さんと共有できたのではないかと思います。
次回は、奈良・高山の谷村丹後さんによる 茶筅(ちゃせん)作りの実演 を予定しています。
茶を支える“道具の世界”へと、さらに一歩踏み込む企画になりますので、ぜひお楽しみに。
