世界を魅了した“太鼓セット”の秘密──林英哲、独自奏法とオリジナル道具が生んだ新しい和太鼓【インタビュー第3回】

開催日2025年11月16日
ゲスト林 英哲さん
司会原田 伸介
コメンテーター稲本 正

共生進化ネット・稲本による林英哲さんインタビュー。
今回は“秘密の練習場”にお邪魔し、太鼓そのものの構造、演奏に使うバチ、衣装の意味、そして連打の迫力まで──和太鼓の裏側すべてを見せていただきました。

和太鼓は「叩く」だけではない。
設計、材質、奏法、そして美学
それらすべてが揃って初めて「音楽」として立ち上がる。

そんな深い世界を、写真付きで紹介するようなイメージでお届けします。

これが“桶胴太鼓”。まずは代表的な太鼓から

最初に英哲さんが紹介してくれたのは「桶胴太鼓(おけどうだいこ)」。

「地域ごとに呼び名が違うから統一は難しいけれど、これは桶の胴を使った太鼓です」

本来は東北の岡倉の伴奏で、横に寝かせて両面を叩く用途のもの。
英哲さんはこれを1人で演奏するためのセットに組み込むべく、専用台(3点台)まで設計したそうです。

★写真を入れるならこの位置:「桶胴太鼓+三点台の写真」

くり抜き胴の「中太鼓」──音の調整は一切なし

次に紹介された「中太鼓」は、欅の木を丸ごとくり抜いた胴を持ち、皮は鋲で完全固定。
桶胴太鼓のように張りを調整できず、打ち手のコントロールだけが音を決めるシンプルかつ厳しい構造です。

隣には締太鼓が置かれ、これらを組み合わせたセットは東京のお囃子でよく使われる形。

しかし、これを“1人で操る”という発想は当時前例がありませんでした。

右利きなのに左中心──林英哲の奏法革命

英哲さんのセット奏法の最も大きな特徴がこれ。

右利きなのに、あえて左手中心で叩く。

伝統芸能の太鼓は右手主導が多く、右手ばかり疲れるという課題があったため、ソロ演奏では不利でした。

「左手を鍛えるために、食事も左手で箸を持っていました」

日常生活から左手を鍛えることで、
右=細かいニュアンス
左=リズムキープ
という“2人分の動作”を1人で行う奏法が誕生したのです。

これはピアニストの左右分業や、ティンパニー(アメリカ式配置)にも通じる発想。
今では英哲さんの代名詞となった重要な技術です。

バチは“数十種類”。木材で音が変わり、役割も違う

秘密の練習場には、壁一面に並ぶバチ。

  • ヒノキ
  • カシ
  • アメリカ産ヒッコリー
  • 竹製バチ
  • 歌舞伎の長バチ
  • 効果音用の特殊バチ

1本ごとに重さ・材質・長さが異なり、叩く太鼓によって使い分けます。

竹製のバチの試奏では、

「波音のような柔らかい音が出るんです」

と英哲さん。
まるで“音の画筆”のように、素材と太鼓の組み合わせで表現が変化していきます。

仏具「内鼓(うちつづみ)」を並べて“楽器”に変えた男

続いて紹介されたのは「内鼓」。
もとは仏教儀式で唱題するときに使う打楽器です。

英哲さんはこの内鼓を音程別に複数並べ、「1人で演奏できる楽器」へと再構築。
この台は 実用新案登録済 のオリジナル発明です。

★写真を入れるならこの位置:「内鼓セットの写真」

音階ではないものの、音の高さが階段状に並び、独特の表現が可能になります。

オリジナル台は世界標準に──でもロイヤリティ0円!?

太鼓を浮かせて響きを保つための“逆V字型の台”。
実はこれ、40年以上前に英哲さんが発明したものです。

現在は世界中で模倣され、プロから学生まで広く使われていますが…

「誰もロイヤリティを払ってくれません(笑)」

それでも太鼓界に革命を起こした大発明であることは間違いありません。

衣装にも哲学がある──“見せる背中”のための設計

英哲さんの衣装は、こちらも完全オリジナル。

  • 袖を素早く脱ぎ着できる「肩衣(かたぎぬ)」風
  • 脚が乱れず美しいシルエットを保つ「立付袴」
  • 白足袋で舞台映えを確保
  • 背中を見せても美しく見えるデザイン

実は、この“和風ステージ衣装”のスタイルは現在多くの団体に広まりましたが、元祖は英哲さんとのこと。

圧巻の連打──音が空気を割き、身体を震わせる

ここで、林英哲さんと風雲の会・辻タスクさんによる連打が披露されました。

太鼓の振動が空気を切り裂き、建物全体が共鳴する。
近距離で聴く太鼓は“音楽”というより“体験”。
胸の中央が振動で波打ち、内臓まで響いてくる迫力でした。

「幸せな時間でした」
「背中が赤くなるほどの全力演奏だった」

通常は本番前に30分の集中とアップを行うところ、今回はほぼぶっつけ本番。
それでも空気を揺らす連打を見せるあたり、やはり“世界の林英哲”です。

次回はいよいよ最終回へ

以上、第3回のレポートでした。
次回第4回では、さらに深い太鼓観や、日本の音文化への考察に迫ります。

どうぞお楽しみに。