なぜ、いま熱海なのか – 枝廣さんと語る、未来をつくる場所の話

開催日2025年8月3日
ゲスト枝廣淳子さん
コメンテーター稲本 正

今回のゲストは、環境・サステナビリティ分野で長年活動を続けてきた 枝廣淳子えだひろ じゅんこさん です。

ここ半年の流れを振り返ると、本シリーズでは多様な視点から「未来」を見つめてきました。
京都での対談、江戸学から見たエコロジー、農業の現場への実践的な関与──その延長線上に、今回の対話があります。


環境問題との出会いと翻訳の仕事

枝廣さんが環境分野に関わり始めたのは、今から25年以上前。
最初の大きなきっかけは、レスター・ブラウンの来日時に通訳として同行したことでした。
出会いは1990年頃。その後、彼の著作を翻訳するようになり、環境分野の書籍翻訳へと活動が広がっていきます。

環境問題を「専門家の議論」で終わらせず、社会全体に伝えていく。
翻訳という仕事は、そのための重要な橋渡しだったといえます。

「空中戦」から「地上戦」へ──熱海への移住

枝廣さんの活動は長く、国の委員会や企業コンサル、地方創生など、いわば“空中戦”が中心でした。
月に一度現地に入り、支援を行う。そのスタイルを20年近く続けてきた中で、次第に思いが強くなったといいます。

自分自身が、現場のプレイヤーになりたい

そうして2020年、熱海へ移住。
今は熱海市民として、地域に根ざした活動を続けています。現場を持つことで、上から見ているだけでは分からなかった課題や可能性が、はっきりと見えるようになったそうです。

海の再生とブルーカーボン

熱海での取り組みの一つが、「ブルーカーボン」。
藻場を再生し、CO₂を吸収することで温暖化対策につなげる考え方です。

しかし現実には、熱海の海から海藻がほとんど消えてしまいました。
海底まで見える「きれいな海」は、実は不健全な状態。海藻がなくなれば、サザエなどの生き物も減り、磯焼けが進行します。これは日本各地で起きている問題です。

海の中には「森」があります。
巨大な昆布やケルプは、驚くほどのスピードで成長し、大量のCO₂を吸収します。海の再生は、気候変動対策の基盤ともいえる存在です。

炭化という選択肢──CO₂を「固定する」

温暖化対策として植林は重要ですが、木は腐ったり燃えたりすれば、CO₂は再び大気中に戻ります。
そこで重要になるのが「固定」です。

枝廣さんは、間伐材や竹、もみ殻などのバイオマスを炭化し、CO₂を固定する取り組みを進めています。従来の炭焼きは過酷な作業でしたが、今回紹介された装置は、現場で誰でも扱えることを目指して開発されたものです。

  • 外側が過度に熱くならない
  • 約6時間で炭化可能
  • 高額になりがちな設備を、現実的な価格帯で

この装置は、枝廣さんの会社「未来創造部」が開発し、現在は特許申請中。
炭は燃料としても使えるため、防災の観点からも大きな可能性を持っています。

災害とエネルギー、防災への応用

災害時、多くの家庭は食料を備蓄していますが、電気が止まれば調理や暖房は難しくなります。
炭は、そうした非常時のエネルギー源として非常に有効です。

各家庭が一定量の炭を持つだけで、数週間のエネルギーを確保できる可能性もあります。
また、災害後に発生する大量の木材や建材を、その場で炭化し、燃料や脱臭・調湿材として再利用する──そんな構想も語られました。


次世代育成というもう一つの軸

枝廣さんは4年前から、29歳以下を対象にした次世代育成プログラム「チーム」を運営しています。
半年ごとに実施され、小学生が参加することもあるそうです。

ここで教えているのは、社会を変えるためのスキル。

  • バックキャスティングでビジョンを描く
  • システム思考で全体を見る
  • 変化の理論を理解する
  • 効果的なコミュニケーションと合意形成

印象的だったのは、参加する若者たちが「学校では環境の話をすると“意識高い系”と言われてしまう」と感じている点でした。
この場では、同じ問題意識を持つ仲間と安心して話せる。その価値は非常に大きいと感じます。


次回へ向けて

今回は、枝廣さんの歩みと現在の活動を俯瞰する回となりました。
空中戦と地上戦、海と陸、環境と人材育成。すべてが一本の線でつながっています。

次回は30分の枠で、さらにテーマを深掘りしていく予定です。
農業、海、炭化、そして未来を担う人材について、引き続き対話を続けていきます。