変わり始めた世界で、日本文化は何を語れるのか~共生進化ネット最終回・講談師 神田香織さんと考える「文化の力」~

開催日2025年7月20日
ゲスト神田香織さん
コメンテーター稲本 正

共生進化ネット第4回、そしてシリーズ最終回では講談師・神田香織さんを迎え、いま世界が大きく変わりつつある中で、日本文化や講談が果たせる役割について語り合いました。


評価され始めた「語り続ける活動」

神田さんは2023年10月、長年にわたり『はだしのゲン』を語り続けてきた活動が評価され、新設された「平和活動賞」の第1回受賞者となりました。
この賞は、もともと未来志向の活動を顕彰けんしょうする賞から派生したもので、平和を分かりやすく伝え続けてきた取り組みが評価された形です。

さらに、講談協会の副会長にも就任されました。
当初は「できるだけ若い人に担ってほしい」と考えていたそうですが、現実的に後継を担う世代が少なく、これまで新作講談や社会的テーマに取り組んできた実績から推薦されたといいます。

「戦争を語る講談会など、これまで個人で続けてきた活動を、協会としても後押ししてもらえるようになりました。時代が変わってきたと感じます」

そう語る神田さんの言葉には、静かな手応えがにじんでいました。

社会全体が「根本的な変化」を求めている

対談では、日本社会全体が大きな転換点にあるという話題にも及びました。
コロナ禍を経て経済が停滞し、将来像が描きにくくなったいま、多くの分野で「根本から考え直す」動きが起きています。

デザイン界や映画界でも、若い世代が要職に就き、従来の枠組みを見直そうとする動きが出てきました。
講談協会もまた、その流れの中で新作や社会的テーマに取り組む余地が広がりつつあります。

「講談は、明らかに社会教育の役割を担える表現です。若い人がもっと気軽に新作に挑戦できる環境になればいいと思います」

古典講談がいま支持される理由

意外にも近年、落語や講談の古典作品に改めて注目が集まっています。
軽く消費されやすい漫才とは異なり、落語や講談は時間をかけて人の人生や感情を描きます。

古典講談には、身分の低い人や弱い立場の人が登場し、苦しみや悲しみを抱えながらも、周囲と支え合い、最後には救われる物語が多くあります。

「耐えている人が、それだけ多い時代なのだと思います。だからこそ、じっくり聞く物語が求められているのではないでしょうか」

神田さんはそう分析します。

農業・着物・暮らしに宿る日本文化

話題は、日本文化の具体的な姿にも広がりました。
農業の衰退、食の質の低下、伝統的な道具や技術が使われなくなる現状。これらはすべて、文化の断絶につながっています。

神田さんは、着物の機能性についても触れます。
一見窮屈に見える着物は、実は体を支え、夏は涼しく、腰への負担も少ない合理的な衣服です。

「成人式の一度きりで嫌いになってしまうのは、もったいないです。もっと気軽に、日常で楽しんでほしいと思います」

着物は体型を問わず美しく見せ、人との接し方さえ変えてくれる力を持っています。

文化こそが、戦争を止める力になる

対談の終盤では、「なぜ人は戦争をするのか」という根源的な問いに話が及びました。
アインシュタインとフロイトの往復書簡が示した結論は、「文化を育てること」でした。

良い文化は、良い土壌のようなものです。
思いやりや想像力が育つ環境がなければ、戦争はなくなりません。

「武器ではなく、文化こそが戦争を止める力になる」

神田さんが講談で戦争を語り続ける理由は、そこにあります。


次の世代へ手渡すために

8月9日には、戦後80年企画として、日本橋社会教育会館ホールで特別講談会が開催されます。
『はだしのゲン』全編口演、新作講談『被爆太郎の物語』、そして100歳の体験者が語るシベリア抑留の証言など、戦争を「自分のこと」として考える一日になります。

戦争のない世界を願うなら、まず文化を育てること。
その文化を、次の世代へどう手渡すのか。

神田さんとの対談の最終回では、その問いを静かに、しかし確かに私たちに投げかけていました。