「農業やりたい」で終わらせない。 ― 談合坂SAから始まった“小俣さんの畑”と、都会の人手が未来を救う話

開催日2025年6月1日
ゲスト小俣 億学さん
コメンテーター稲本 正

6月1日(日)、共生進化ネットの取材で小俣億学おまたとしのりさんの畑を再び訪れました。今回で2回目。現地には、育てている作物がずらりと並び、実物を見ながら話が進みます。

稲本さんが最初に投げかけたのは、シンプルだけど重たい問いでした。
「農業をやりたいと言う人はいる。でも、“希望”で終わってる人が多いよね」

スーパーに行けば食べ物は手に入る。便利でラクな社会になった一方で、農業人口はどんどん減っていく。そんな現実を前に、「じゃあ、農業ってどう続ければいいのか?」という話が、畑の空気の中でゆっくり立ち上がってきました。


“畑は手伝うのが当たり前”だった時代から

「最初から農業をやろうと思ってたんですか?」
稲本さんの質問に、小俣さんは自分の原点を語ります。

小俣さんの実家では、昔から“自給的に”食べるものを育てる暮らしがありました。父親は会社員として働きながらも、休日は畑を耕し、朝の短い時間にも畑に出る。そんな姿を見て育った小俣さんも、自然と土に触れるのが好きになっていきます。

子どもも休みの日に畑を手伝うのが当たり前で、それは「労働」というより、むしろ遊びに近かった。
ただ同時に、小俣さんは子どもながらにこう感じていたそうです。

「農業だけで食べていくのは難しい」

中山間地で土地は狭く、斜面が多い。さらに「売る場所がない」。
好きだけでは続かない現実が、そこにはありました。

きっかけは“談合坂だんごうざかサービスエリア”だった

小俣さんが本格的に動き出す契機となったのは、約20年前。中央道の拡幅工事の話が出た頃でした。

地元の農家さんたちが「談合坂サービスエリアで野菜を売れる場所を作ってほしい」と要望し始めたのが始まりです。小俣さん自身も当時、土木設計や測量など道路関係の仕事をしながら、実家の畑を手入れしていて、この流れに関わるようになります。

最初の頃は年に数回、テントで販売する程度。継続にはほど遠かった。
しかし高速道路の民営化を機に「施設の有効活用」という流れが生まれ、販売の仕組みが少しずつ整っていきます。

そして話は意外な方向へ進みます。

「週1回くらいで…」
という希望に対して、返ってきたのは
「毎日やってください」
という条件。

毎日出すのは大変。でも、毎日出せば“生活になるかもしれない”。
小俣さんは仕事と並行しながら続け、次第に「これならやっていける」という手応えを掴んでいきました。

狭い畑を回して、少しずつ“育てる農業”へ

最初から広い畑があったわけではありません。
だからこそ、最初は回転率の高い葉物など、短期間で収穫できる作物から始めます。

狭い土地を効率よく回し、徐々に畑を広げながら、芋類や雑穀など、栽培期間の長い作物も増やしていく。
その積み重ねが、今の形につながっています。

現在は談合坂SAだけでなく、上野原駅前のスーパー(一山マート)の直売コーナーにも出荷するようになり、販路も広がりました。

屋号「農天氣」に込めた、自然への向き合い方

小俣さんの屋号は「農天氣」。
面白い名前ですが、意味はとても真面目です。

自然相手の農業は、天候も災害も避けられない。
でも、それをただ嘆くのではなく、自然の“気配”を受け取り、工夫しながら対応していく。そんな姿勢を名前に込めたそうです。

さらに「気」の字は、新字体ではなく“米”の形が入った旧字体を使っています。
締まりすぎず、広がりがある字。これが小俣さんのトレードマークになっています。

「旬」は短い。だから“人手”が足りない

話の中で何度も出てきたのが、人手の問題です。

農業でいちばん手が必要なのは、収穫のタイミング。
しかも、自然の力を活かして育てるほど、収穫のピークは短期間で一気に来ます。

山菜も同じです。
たとえばコゴミは旬が1週間ほどで終わることもある。旬の間にどれだけ動けるかで、収穫量は大きく変わってしまいます。

「恵みが来る。でも、取る手がいないと終わる」

この現実が、農業を難しくしている。

冬の収入をどうするか?―里芋と雑穀の意味

稲本さんは森林の話も交えながら、「年間を通して仕事と収入がある仕組みがないと続かない」と語ります。農業は特に冬の収入が課題になる。

小俣さんが里芋を重視するのは、保存が効き、冬にも販売できるから。
一方で芋類は連作ができず、土の回し方が重要になります。

そこで登場するのが雑穀です。

雑穀は保存性が高く、栄養も豊富。
さらに、収穫後の残渣(茎や葉)を土にすき込めば肥料にもなる。
食にも土にもなる作物として、輪作の間に入れる意味が大きいのです。

ただし、雑穀は収穫や脱穀に手間がかかる。
機械がない現状では手作業中心になるため、ここでもやはり人手がカギになります。

都会と農村をつなぐ「ピークだけ手伝える仕組み」へ

稲本が強調したのはここでした。

農業人口を昔のように増やすのは現実的に難しい。
でも、普段は別の仕事をしていても、「ピークの時期だけなら手伝える」人はいるはずだ。

その人たちが必要な時に集まれる仕組みを作れないか。
共生進化ネットは、そこを目指している――という話につながります。

小俣さんも「畑の管理は経験が必要だけれど、収穫は参加しやすい入り口」と言います。
収穫は大変だけれど、喜びも大きい。だからこそ、関わるきっかけにもなる。

6月29日、じゃがいも掘りをやります

次の具体的なアクションとして、6月29日にじゃがいも掘り体験を実施予定です。

上野原は、じゃがいもの歴史が深い地域でもあります。
かつて飢饉の時代に、じゃがいもが人々を救ったという背景があり、今の気候変動の時代にも「米だけに頼らない」発想は大きな意味を持つ。そんな話も出ました。

料理の仕方、食べ方も含めて、食と農がつながること。
さらに、山や森林ともつながっていくこと。
縦割りではなく“幅を持って”やっていく必要がある。取材はそうした視点へ広がっていきました。


次回予告:第3回は6月8日

共生進化ネットの次回(第3回)は 6月8日
再び畑の現場を見ながら、現実を掘り下げて報告する予定です。