命のバトンをつなぐ理由ーがんサバイバーとして、生き方を伝えるということ

開催日2025年3月16日
ゲスト藤森香衣さん
コメンテーター稲本 正

「がんは、治療が終われば終わりではないんです」

3月16日に配信された「共生進化ネット」。
ゲストは、がんサバイバーであり、NPO法人「C-Ribbons(シーリボンズ)」代表理事の藤森香衣さん。シリーズの最終回となった今回は、単なる活動紹介にとどまらず、「生きるとは何か」「死をどう引き受けて生きるのか」という、極めて根源的な問いが交わされました。

C-Ribbonsは「支援団体」ではなく「通訳者」

藤森さんが2016年に立ち上げたC-Ribbonsは、乳がんに限らず、さまざまながんの当事者やサバイバー、そして家族を支えるNPO法人です。

特徴的なのは、「自分たちですべてを抱え込まない」という姿勢でした。
自分たちにできないことは、できる団体へつなぐ。専門外のことは無理に背負わない。その代わり、「今、この人に必要な場所」を一緒に探す。

藤森さんは、自身が早期発見で大きな治療をせずに済んだ経験を持つ一方で、闘病で心身ともに追い詰められていく友人や、その家族の姿を数多く見てきました。

「気持ちを分かってくれる人が一人でもいれば、あそこまで苦しまなくて済んだかもしれない」

その思いが、C-Ribbonsの根幹にあります。

がんは「終わり」ではなく「その後」が長い

番組では、日本人女性の9人に1人が乳がんになるという数字も語られました。
しかし問題は、その数字の大きさ以上に、「治ったあと」の現実です。

治療が終わっても、不安は消えない。
体調、仕事、家族、将来への恐怖。
そして「元の自分には戻れないかもしれない」という感覚。

藤森さんが繰り返し伝えているのは、「診断直後に、仕事を辞めないでください」という言葉です。

理由は二つあります。
一つは現実的な問題として、治療にはお金がかかること。
もう一つは、社会とのつながりを失うことで、人は急激に弱ってしまうからです。

「戻る場所がある、という感覚が、“治って生きる”エネルギーになる」

これは医療の話であると同時に、人間の生き方そのものの話でした。

「先に入った人」として、恐怖を減らす

藤森さんは、自身の立場をこんなふうに表現します。

「お化け屋敷に先に入った人みたいなものです」

どこで何が起こるのかを知っているから、「次、ここで怖くなるよ」と伝えられる。その一言があるだけで、後に続く人の恐怖は確実に減ります。

がんという言葉は、どうしても人を遠ざけます。
そこで藤森さんは、美容やメイク、アンチエイジングといった「入り口」を用意しました。

「細胞の話」は、がん細胞も肌細胞も同じ。
伝え方を変えることで、届く人が増える。

これは妥協ではなく、生きるための戦略です。

稲本正が語る「生と死の現実」

対談の中で、稲本正さんは、自身の父親が体験した戦争の記憶を語りました。
戦場で、ある日突然、静かに命が消えていく現実。
英雄的な最期など、ほとんど存在しなかったという話。

その語りは、「死を美化しない」という強烈な現実感を伴っていました。

だからこそ、稲本さんは言います。

「人間は、生き物なんだよ」

病気も、老いも、死も、例外ではない。
その前提を引き受けたうえで、どう生きるのかが問われているのだと。

「命のバトン」という考え方

藤森さんは、自分の活動を「命のバトン」だと表現します。

友人が遺してくれた言葉や行動。
それを受け取り、自分が生き延び、別の誰かへ渡していく。

それは自己犠牲でも、使命感の押し付けでもありません。
「生きてしまった者の責任」とも少し違う。

ただ、つながってしまったから、つなぐ
その自然な感覚こそが、藤森香衣さんの生き方なのだと感じさせられました。

生き方そのものが、メッセージになる

稲本さんは最後に、こう語ります。

「がんサバイバーとしてだけじゃない。
生き方そのもののモデルになっている」

年齢を重ねても、元気で、美しく、社会と関わり続ける。
それは「前向きでいなければならない」という強制ではなく、
生きているという事実を、ちゃんと使い切ろうとする姿勢です。


がんの話であり、戦争の話であり、
同時に「私たちはどう生きるのか」という問いの話でした。

藤森香衣さんがつないでいるのは、支援でも制度でもなく、
生き方そのものなのかもしれません。