「建築は勝たなくていい」─隈研吾さんが語る〈負ける建築〉の原点と思想

開催日2025年1月26日
ゲスト隈研吾さん
コメンテーター稲本 正

2025年1月26日(日)、共生進化ネットの配信に、建築家・隈研吾さんをゲストとしてお迎えしました。コメンテーターは稲本正。今回は、隈研吾という建築家の「原点」とも言える思想、そして著書『負ける建築』や『新建築入門』に込められた考え方について、じっくりと語っていただきました。

意外と古い縁から始まった対話

隈さんとは、実はかなり以前からの縁があります。私が『森の惑星』という本を発表した際、そのイベントに隈さんをお招きしたことがありました。2000年前後のことだったと思います。隈さんがニューヨーク滞在中に執筆された『10の建築―住宅論』を読んだのが、最初のきっかけでした。

その後、国立公園内に建設された木山展望台のプロジェクトでも関わることになります。この展望台は、完成から30年以上経った今も人々に親しまれ、修繕の相談が来るほど大切に使われています。

「埋める」という逆転の発想

木山展望台の計画地は、国立公園の第一種地域という非常に厳しい条件の場所でした。当時の指導では「屋根のある建築物」を求められていましたが、それでは山頂に不自然な建物が立ってしまう。

そこで隈さんが選んだのが、「建物を埋めてしまう」という発想でした。環境と対立するのではなく、環境に身を委ねる。行政との粘り強いやり取りの末に実現したこの考え方は、後の隈建築を象徴する姿勢でもあります。

建築を哲学と歴史から読み解く『新建築入門』

今回の対談で特に印象的だったのが、隈さんの著書『新建築入門』の話です。この本は、単なる建築の解説書ではありません。ギリシャ哲学から近代思想に至るまで、哲学の流れと建築の変遷を重ね合わせながら、「建築とは何か」を根本から問い直しています。

1994年、バブル崩壊によって仕事が次々とキャンセルされ、さらにお父様の病気で海外に行けなくなった時期。時間ができたからこそ、建築をゼロから考え直すことができたと隈さんは語ります。哲学と建築の関係を体系的に整理したこの本は、今でも「教科書として読むべき一冊」だと感じさせられます。

なぜ「負ける建築」なのか

続いて話題は『負ける建築』へと移りました。「建築家が“負ける”という言葉を使うのは珍しい」と感じる方も多いでしょう。しかし、この言葉には深い意味があります。

高度経済成長期を背景に活躍した先輩世代の建築家たちは、環境にも周囲にも“勝つ”建築をつくってきました。時代が彼らを押し上げ、強いカリスマ性を生んだ一方で、その姿勢はこれからの時代には合わなくなっていく。

隈さんは、そうした「勝つ建築」とは対照的に、「負ける」ことを自らの立ち位置として選びました。自然に逆らわず、環境に溶け込み、人のスケールに建築を戻す。その姿勢こそが、隈研吾という建築家のアイデンティティなのです。

勝たないからこそ、見えてくる未来

「負ける建築」は、決して後ろ向きな考え方ではありません。むしろ、建築がどこまで行き詰まり、どこに可能性があるのかを冷静に見極めた結果です。当時は、自分の世代が評価される時代が来るとは想像もしていなかったと、隈さんは振り返ります。

しかし今、世界中で隈建築が評価されている事実が、その思想の確かさを物語っています。

次回は、さらに原点へ

今回は導入として、隈研吾さんの思想の出発点をたどりました。次回は、幼少期の体験や建築観の形成、そして「負ける建築」を超えた次の世代の建築について、さらに深く掘り下げていく予定です。