「競争ではなく共生へ」―なぜ今、共生進化なのか

配信日2025年1月19日
コメンテーター稲本 正

「共生進化」という言葉を、皆さんはどれほど正確に理解しているでしょうか。
今回は、この言葉の意味と背景について、あらためて基本からお話ししたいと思います。

実は「共生進化」という考え方は、まだ多くの人に十分伝わっていません。だからこそ今回は、なぜこの視点が必要なのか、どこに問題意識があるのかを、できるだけ分かりやすく整理します。


私たちの思考を支配してきた「デカルト的世界観」

現代社会の思考の土台には、デカルトの思想があります。
彼の著書『方法序説』は非常に薄い本ですが、その影響力は圧倒的です。私たちが「合理的」「正しい」と感じている考え方の多くは、このデカルト的思考に基づいています。

しかし、私はこの思想に大きな誤りが二つあると考えています。

一つ目は、「人間だけが理性を持ち、他の生物や植物とは本質的に異なる存在である」という考え方です。
これは遺伝子研究の進展によって、すでに否定されています。

二つ目は、「物質世界と人間の理性は切り離されており、理性を徹底すれば人間は神に近づける」という二元論的な発想です。

デカルトは、物事を細かく分解し、一つずつ理性で解決していけば、最終的に問題は解決できると考えました。そして「我思う、ゆえに我あり」という言葉に象徴されるように、「考えること」こそが人間の本質だとしました。

しかしこの考え方は、生物全体を貫くつながりを見落としています。

二元論がもたらした環境問題という結果

この二元論的世界観に基づいて社会が動いてきた結果、環境問題をはじめとする深刻な課題が噴出しました。
人間と自然を切り離し、人間の理性だけを特別視した結果、私たちは取り返しのつかないところまで来てしまったのです。

この流れを根本から見直す視点を与えてくれたのが、シュレーディンガーの『生命とは何か』でした。

生命は「分断」ではなく「つながり」でできている

シュレーディンガーは、生命を「循環し、繰り返される中で新しいものが生まれていく存在」と捉えました。
原生生物から人間まで、すべては一本の物語としてつながっているという視点です。

彼は生命を「設計図と大工が一体になった存在」と表現しました。
さらに生命の根源を突き詰めると、宇宙のすべては一体化できるという、ウパニシャッド哲学にまで行き着くと述べています。

量子論を築いた物理学者が、生命と宇宙のつながりにまで踏み込んでいたことは、まさに驚異的です。

生物の99%は「人間以外」でできている

共生進化を考えるうえで、決定的に重要な事実があります。
それは、陸上生物の約95%が植物であり、微生物を含めると約99%が人間以外の生物だということです。

人間は、生物全体の中では1%にも満たない存在です。

しかも植物は、自ら栄養を生み出す自栄養生物であり、動物がいなくても生きていけます。一方で、動物は植物なしには生きられません。

人間が体を動かせるのも、細胞内にあるミトコンドリアのおかげですが、このミトコンドリア自体、かつて独立した生物だったと考えられています。

生物は、最初から「共に生きる」仕組みとして成り立っているのです。

競争進化では説明できない「共生」の現実

進化というと、多くの人は「競争して勝ち残ったものが進化する」というイメージを持っています。
しかし生物をよく観察すると、まったく違う姿が見えてきます。

植物は生物量で最も多く、動物の中で種類が最も多いのは昆虫です。
そして植物と昆虫は、蜜を与え、花粉を運ぶという相互利益の関係で結ばれています。

これは競争ではありません。
お互いを生かし合う「共生」です。

この共生関係こそが、生物進化の基本原理であり、私はこれを「共生進化」と呼んでいます。

人間は進化の頂点ではない

人間が進化の頂点にいるという考え方も、誤解です。
植物は植物なりに進化し、昆虫は昆虫なりに進化し、象は象なりに進化しています。

象の記憶力が人間を大きく上回ることなども、すでに分かっています。
進化とは、優劣ではなく「多様性」なのです。

人間は、進化の一部でしかありません。
この視点を持たなければ、人類そのものが生き延びられないのではないかと私は考えています。

共生進化ネットを立ち上げた理由

こうした問題意識から、私は「共生進化ネット」を立ち上げました。
これまで5名のゲストを迎え、今後も12名目までほぼ決まっています。

次回、1月26日には建築家・隈研吾さんをお迎えします。
隈さんの思想は、意外なほど誤解されています。
『日本の建築』『負ける建築』『自然な建築』などを踏まえ、共生進化の視点からじっくり掘り下げていく予定です。


競争の時代から、共生の時代へ

これからの時代に必要なのは、「競争して勝つこと」ではありません。
「共に生き、共に進化すること」です。

共生進化という視点を通して、私たちはもう一度、人間と自然、生命と社会の関係を見直す必要があります。
その対話の場として、共生進化ネットを続けていきたいと考えています。

今後の展開にも、ぜひご期待ください。