| 開催日 | 2024年12月08日 |
| ゲスト | 武内陶子さん |
| コメンテーター | 稲本 正 |
12月8日配信の「共生進化ネット」は、ゲストに武内陶子さんを迎えての3回目。今回のテーマは、意外なほど身近で、しかし社会の根っこに直結している話でした。
それは―「食べること」です。
ファストフードが当たり前になり、食材がどこで作られたのかも分かりにくい時代。便利さの裏で、私たちは食の本質から少しずつ遠ざかっているのかもしれません。対談はそんな問題意識から始まりました。
食べることは「生きること」そのものです
稲本さんは、食の重要性がどこか軽く扱われている現状に触れます。日本の食料問題のような大きなテーマもありますが、それ以前に、日々「食べる」という行為そのものが、もっと大切にされるべきだという視点です。
狩猟採集の時代は、獲物が捕れなければ明日がない。穀物が手に入らなければ生き延びられない。だから人は食べることに全力で向き合っていました。
ところが現代では、誰が作ったのか分からないものを当たり前に口にし、命をいただく感覚が薄れてきている――稲本さんはそう語ります。
「いただきます」は、自然への感謝を日常に組み込む言葉
今回の対談で印象深かったのが、「いただきます」の話です。
稲本さんは、ドイツに住む友人が日本料理を振る舞い、食べる前に「いただきます」を教えたエピソードを紹介します。するとドイツの方にこう聞かれたそうです。
「誰に向かって言っているんですか?」
そこで「自然に感謝しているんです」と答えると、とても驚かれた。
箸を置き、箸を取り、いただきますと言って食べる――その所作の中に、日本人は長く「自然への感謝」を織り込んできました。
しかし今は、どこで作られたかも見えにくい。作った人の顔も見えない。だから感謝の実感を持ちにくくなっている。そんな感覚が、丁寧に語られていきます。
武内陶子さんの“リアル弁当生活”がすごい
一方で、食べることの現場を担っているのは日々の生活です。武内さんは、働きながら毎日3人分のお弁当を作っていると話します。
朝は5時半に起き、ラジオを聞きながらお弁当作り。冷凍食品も使うし、忙しいからこそ「現実的に回す」工夫も欠かせません。
そして、生活者ならではの具体的な知恵が飛び出します。
- お弁当の“隙間”には卵焼きより 炒り卵 がフィットする
- 彩りと栄養を意識して、アスパラなど緑の野菜を少し入れる
- 食物繊維や野菜を、無理のない範囲で取り入れる
完璧を目指すのではなく、続けられる形で積み重ねる。ここに説得力があります。
料理は「総合技術」―想像力が自然に鍛えられる
稲本さんは料理を「総合技術」だと言います。
建築が総合芸術なら、料理もまた同じ。素材がどこから来たのか、どんな状態なのか、食べる人がどう感じるか――そういった全体を見ながら、最終的に一つの形にまとめていく行為だからです。
武内さんも、料理の面白さは「段取り」にあると話します。
刻んでいる間にお湯を沸かす。
茹でている間にご飯が炊けるように進める。
無駄が減り、流れが整っていく。
さらに、武内さんは「食感の多様さ」が味覚を育てると言います。
もちっとした中にカリッがある。
コリコリの中に滑らかさが絡む。
食感の組み合わせは、楽しさであり、子どもの感覚を育てる力にもなります。そして、それは想像力にもつながっていく――という視点が印象的でした。
想像力が細る時代に、食ができること
対談は、食から「想像力」へと話題が広がります。
変化が激しい時代、企業も社会も「変わり続ける力」が必要になります。その根っこにあるのが想像力です。
ところが日本の教育は長い間、「正解を当てる」「答えを見つける」方向に偏りがちで、課題を見つけ、解決を組み立てる訓練が十分ではなかった――稲本さんはそう指摘します。
さらにコロナ禍の数年は、人と人のつながりや協力の感覚を弱らせた面もある。だからこそ今、もう一度「協力し合い、思いやりながら未来をつくる力」が必要なのだと語られます。
競争より“共生”が多い――生物から学べること
ここで、話は共生進化ネットの本題へ戻っていきます。
これまで、生物の進化は「競争」が中心だと考えられてきました。しかし、昆虫と花の関係などの研究から、実は**お互いに利益を得る共生(相利共生)**のほうが、想像以上に大きいことが分かってきた。
植物は生物量で圧倒的に多く、昆虫は種数が圧倒的に多い。人間がいなければ、地球は「植物と昆虫の惑星」と言ってもいい。
その二者が交わす情報やコミュニケーションは、人間が想像する以上に複雑で濃密です。
さらに、土の中の菌や微生物の世界が注目され、土中環境の豊かさが植物の健全さを支えていることも分かってきました。土を荒らしすぎることが、むしろ自然の力を弱める。農業のあり方そのものを考え直す必要がある、という話にもつながっていきます。
食育は「体験」で一気に変わる
武内さんは、北海道の農業体験施設に子どもたちを連れて行った経験を語ります。畑の野菜を収穫して食べ、鶏から卵をもらう。虫もいるし、自然の中そのものです。
すると、普段は食べられなかったトマトを、子どもが丸かじりして「おいしい」と言い出した。キュウリも同じ。家で切って出しても食べなかったのに、採ってきたものは食べられる。
「食育は大事」と言葉で言うより、体験の力は圧倒的だ。
小さい頃の体験が、その後の食の感覚を変える。そんな確信が伝わってくるエピソードでした。
次回は最終回―「体験を増やす」話へ
今回は、食の話から始まり、想像力、教育、共生進化、農業、土の世界へとつながっていきました。
すべてが一本の線で結ばれていたのは、「生きる感覚を取り戻す」という視点です。
次回は12月15日。武内陶子さんとの最後の30分です。
今回出てきた「体験をどう増やすか」という話も、さらに深まっていきそうです。
