9月29日、共生進化ネットがスタートしました。
この日は「番組がどんなものか」をまず知っていただくための無料回として配信され、ゲストには生命誌研究者の中村桂子さんをお迎えしました。
“本格的に始まる前の導入回”でありながら、話題は最初から深いところへ入りました。なぜこの番組を始めたのか。いま私たちは何を考えるべきなのか。その輪郭がはっきりと語られた回です。
なぜ番組を始めたのか─「意見交換」が薄くなっている
稲本さんは、番組を立ち上げた理由を率直に語りました。
テレビなどを見ていると、真面目に話しているようでいても、本当に深い意見交換ができているのかが疑わしい場面がある。社会の表層だけをなぞる言葉が増え、根本に踏み込む議論が減っているのではないか─そんな問題意識です。
けれど、いま必要なのは「もう少し深く考えること」です。
しかも、ただの時事ではなく、根本的なことを考え直す必要がある。そうしなければ「人類は危ういところに来ているのではないか」という感覚が、この番組の出発点になっています。
共生進化ネットは、そのための「考えるきっかけ」をつくる場として立ち上げられました。
ゲストは中村桂子さん─「生き物としての人間」を取り戻す
初回ゲストの中村桂子さんは、生命誌研究の実践者として知られています。
中村さんが一貫して語るのは、「人間は生き物である」という、当たり前なのに現代社会で見失われがちな視点です。
いま世界では、異常気象、パンデミック、そして戦争が続きます。
このまま人間は生き続けられるのか。地球は、これ以上の負荷に耐えられるのか。そうした不安は、誰にとっても他人事ではありません。
この状況で、科学や科学技術はたしかに重要です。
AIや宇宙開発も大事ですが、それと同時に、もっと基本の問い──
- 地球とは何か
- 生き物とは何か
- 人間とは何か
を考えるための科学が、いま必要なのではないか。中村さんはそう語ります。
タイパの時代にこそ必要な視点─生き物は「時間を紡ぐ存在」
中村さんの話の中で印象的だったのは、現代の価値観への問いかけです。
最近は「タイパ(タイムパフォーマンス)」という言葉が象徴するように、時間を切り詰め、早く処理することが善とされがちです。
しかし中村さんは、ここに強い違和感を示します。
生き物は、本来「時間を紡ぐ存在」です。
時間を切るという発想が先に立つと、生き物としての営みが薄くなり、生きる意味そのものが痩せてしまう。だからこそ、効率だけで動く社会を見直し、「人間を生き物として捉え直す」ことが必要だというのです。
生命誌が大切にする4つの柱
中村さんは、生命誌の考え方を支える重要な視点として、次の4点を示しました。
1)生命の基本は「多様性」
生き物は、驚くほど多様です。ところが社会は、一律化しやすい。生命の原理から見れば、これは危うい方向です。
2)多様だけれど「共通」でもある
生き物はバラバラではありません。すべて細胞でできており、共通の起源を持ちます。私たちは生命として「仲間」です。
3)すべての生き物が「40億年」を生きている
どの生き物も、40億年の進化の結果として“いまここにいる”。優劣や序列で並べる発想では、本質が見えなくなります。
4)そして「人間もその中にいる」
人間が上から自然を見て「多様性を守ってあげる」という態度ではなく、
「多様性が失われたら自分も生きられない」という当事者意識が必要だ、という指摘です。
「史」ではなく「誌」─偉人の物語ではなく、生命全体の物語へ
生命誌という言葉の「誌」には、重要な意味が込められています。
「歴史」という言葉は、ともすると偉人や権力者中心の物語になりがちです。しかし生命誌が扱うのは、人間だけの物語ではありません。
バクテリアも、植物も、昆虫も、すべての生命の営みが“物語”であり、それを総体として読み解くことで、人間の生き方も見えてくる。
だからこそ「誌」という字が選ばれたのです。
これからの展開─対話を深め、現場へ向かう
この日の配信は導入回でしたが、番組は今後、さらに多様なゲストと対話を重ねていきます。
野中ともよさん、竹内 陶子さん、太刀川 英輔さん、隈 研吾さん、藤森 香衣さんなど、さまざまな分野の視点を通して「根本」を掘り下げていく予定が語られました。
また、稲本は「聞いて終わり」ではなく、得たヒントをもとに各自が考え、最終的には現場に行き、体と一緒に考えることも大切にしたいと述べています。
まとめ
「人間は生き物である」─その当たり前を起点に、いまの社会をどう見直すのか。
共生進化ネットは、軽い言葉が飛び交う時代に、あえて深く潜るための場として始まりました。次回の対話も、注目していきたいところです。
