| 開催日 | 2026年1月25日 |
| ゲスト | ピーター・バラカンさん |
| コメンテーター | 稲本 正 |
稲本正とピーター・バラカンさんが、これまでの議論を踏まえながら、「音楽」「社会」「信頼」「分断」、そして「人類のこれから」について、率直に語り合いました。
競争や対立が加速する現代社会において、音楽や文化はどのような役割を果たせるのか。
その問いに対する、静かで、しかし本質的な対話です。
原子物理から生命へ―価値観が転換した原点
稲本はもともと原子物理学を専攻し、大学で長年研究に携わってきました。
原子力の「安全利用」を研究する現場で、理論と現実の乖離を痛感したといいます。
「制御できている間は問題がない。しかし一度暴走すれば、取り返しがつかない」
その経験から、原子力だけでなく、資本主義や競争社会そのものも、原発と似た構造を持っていると考えるようになったと語ります。
適切に“冷却”されなければ、社会もまた暴走するのではないか――。
この問題意識が、やがて「生命とは何か」「共生とは何か」という問いへとつながっていきました。
共生進化という視点―人類は主役ではない
稲本が影響を受けたのが、昆虫と植物の関係です。
花粉を運ぶ代わりに蜜を得る。互いがいなければ成り立たない関係。
生命史的に見れば、地球上で最も繁栄しているのは昆虫であり、人類は決して頂点ではありません。
この「共生による進化」こそが、本来の自然のあり方であり、人類社会もそこから外れてはいけない。
「人間がいなくなっても地球は続く。でも、植物と昆虫がいなくなったら終わりです」
この視点こそが、「共生進化ネット」という名前に込められた思想です。
音楽が人を鎮める理由
対話は音楽の話題へと移ります。
バラカンさんは、人間が一緒に歌ったり、同じ音楽を共有したりすると、競争心や敵意が自然と薄れていくことを指摘します。
これは感覚的な話ではなく、脳科学的・心理学的にも知られている現象です。
「合唱やライブで、知らない人同士が同じ感情を共有する瞬間がある。あれはとても重要です」
言葉は時に対立を生みますが、音楽は言葉を超えて人をつなぐ。
だからこそ、音楽は分断の時代において、特別な意味を持つのだと語られました。
静かに世界へ広がる音楽たち
話題は、現代の音楽シーンへ。
バラカンさんが紹介したのは、イギリス・マンチェスターを拠点とするスピリチュアルジャズのアーティストや、日本の民謡をラテンやアフロビートと融合させる「民謡クルセイダーズ」。
彼らに共通しているのは、「世界を狙って作った音楽」ではないという点です。
「国際的に受けることを意識しすぎると、逆に届かなくなる。ただ面白いと思うことをやっているだけなんです」
結果として、その音楽が世界中で受け入れられていく。
ここにもまた、「競争」ではなく「共鳴」による広がりが見えてきます。
信頼が失われた社会で、何が必要か
対話は、広告、メディア、政治へと及びます。
誇張された広告、強制的に流れる映像、分断を煽る言葉。
それらは短期的には注目を集めても、長期的には「信頼」を壊していく。
「信頼を失ったら、もう何も伝わらない」
バラカンさんは、国籍や国家よりも、個人と個人の信頼関係がこれからの社会の基盤になると語ります。
国家は期待しすぎる対象ではなく、
ローカルなコミュニティで、顔の見える関係を育てていくことが重要だという考えです。
アクト・ローカリー、シンク・グローバリー
番組の終盤で繰り返し語られたキーワードが、
「Act locally, Think globally(足元で行動し、地球規模で考える)」
小さな場所での実践が、ネットワークとしてつながっていく。
インターネットもSNSも、分断の道具ではなく、共感を広げる道具として使えるはずだ。
「どう使うかは、人間次第なんです」
音楽、対話、教育、コミュニティ。
それらを通じて、次の世代に何を残せるのか―。
最後に―次の世代のために
稲本は、孫世代の未来に強い危機感を抱いていると語ります。
地球環境、生態系、教育、価値観。
「今、方向転換しなければ、本当に間に合わない」
しかし同時に、希望も示されました。
異なる分野の人が出会い、対話し、共鳴することで、新しい流れは生まれる。
それこそが、「共生進化ネット」が目指してきたものです。
次回予告
次回の「共生進化ネット」では、岐阜出身のアーティスト 日比野克彦さん をゲストに迎え、
森とアート、身体性と創造性について、さらに深く掘り下げていきます。
どうぞご期待ください。
