| 開催日 | 2025年12月28日 |
| コメンテーター | 稲本 正 |
年末から正月にかけて、共生進化ネットはひと区切りを迎えました。
同時に、新しい流れも始まっています。
今回はいつもの「対談回」ではなく、これまでのゲスト回を振り返りながら―
彼らが何を語り、それが私たちの“生きるヒント”として何を残したのかをまとめた“中間報告”回。
登場したのは、
エバレット・ブラウンさん、林英哲さん、そして西村真里子さん。
表現者もいれば、思想家肌もいる。テック最前線の人もいる。
なのに不思議と、話は一本の線で繋がっていました。
その線は、たぶんこうです。
「視覚に偏った世界で、失われた感覚を取り戻せ」
① エバレット・ブラウン:写真家が“視覚”より大事だと言ったもの
最初に振り返られたのは、写真家のエバレット・ブラウン。
彼の写真は、よく言えば「抽象的」、悪く言えば「何を撮ったか分からない」。
でも、その表現が今回の回で別次元に跳ねたのが、六角堂でのドローン撮影でした。
岡倉天心が『茶の本』を書いた場所として知られる六角堂。
そこへ実際に行き、朝4時から準備し、眠気の残る中で撮影を敢行する。
その“現場のリアル”ごと映像が番組に乗る。
さらに、その映像を 茶室の掛け軸として設える。
東京新宿の伝統空間に、ドローンの現代映像を掛ける。
この時点で、ただの「撮影」ではなく、すでに“実験”です。
そして何より面白いのが、ブラウンが語った感覚の話でした。
写真家なのに、彼が強調したのは視覚ではなく聴覚だった。
現代は刺激のほとんどが視覚に偏っている。
その結果、聴覚が弱っている。
だからこそ、音を聴き直す。
風の音だけではなく、波の音と響き合うような「耳」を取り戻す。
ここにさらに、茶筅づくりの世界が重なります。
茶筅の先を、1mmの細さで64本、あるいは73本に割っていく。
これは理屈ではなく、ほぼ“触覚”の領域。
この回が提示したのはこういうことでした。
- 見るだけの世界では、感覚が鈍る
- 聴く・触れる・味わうという“別の判断軸”が必要になる
- そこに人間の未来がある
② 林英哲:太鼓を「祭りの脇役」から「舞台芸術」に変える人
次に取り上げられたのが、太鼓奏者の林英哲。
太鼓といえば祭りの囃子――つまり“脇役”になりがちです。
でも彼がやっているのは、その逆。
太鼓を舞台に上げ、観客を震わせ、共感でステージを成立させる。
つまり「太鼓」を芸術ジャンルとして作り直すことでした。
さらに現実問題として、太鼓は練習場所がとにかく難しい。
大太鼓を叩けば音は凶器級。都市部ではすぐに苦情が来る。
その意味で、表現の裏には「場所をどうするか」という戦いがある。
今回の回では道場に入り、実際に目の前で太鼓を叩く。
バチの違い、太鼓のサイズ、素材の違いまで含めて見せる。
欅(けやき)だけでなく、カメルーン産のブビンガで作った大太鼓も登場し、音の厚みが変わる。
さらに、林英哲の“隠れた功績”として触れられたのが――
伊藤若冲ブームの立役者という側面でした。
若冲がまだ一般に広く知られていなかった時代から、
若冲をテーマに曲を作り、舞台で表現しようとしてきた。
若冲の絵の「鳥や動物が飛び出す迫力」と、太鼓のエネルギーは、たしかに似ている。
ここで出てくるのが、さっきの話と繋がる感覚です。
絵を見ると音が響く
音を聴くと絵が浮かぶ
視覚と聴覚が分断されていない世界。
それを“体験として”つなぎ直す。
林英哲さんの回もまた、感覚の回復の話でした。
③ 西村真里子:世界の最先端を見続ける人が、なぜローカルにも深く入るのか
最後に振り返られたのが、西村真里子。
国際基督教大学(ICU)出身で、理系・文系に割り切れないリベラルアーツの土壌を持つ人です。
英語力と世界観が鍛えられた背景には、留学生の多い環境もあったのでしょう。
西村さんの特徴は、とにかく世界の最先端を見続けていること。
CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)に13年通い続け、レポートを書き続ける。
CESは家電展示から始まり、今ではAIやアートまで呑み込む“未来の見本市”になっている。
さらに、トヨタの「ウーブン・シティ」がCESで発表された話にも触れられます。
世界の先端が、そこに集まる。
西村さんは、その“熱量の現場”を観察し続けてきた人です。
――なのに、彼女はグローバル一辺倒ではない。
輪の教会の活動、地域の話、栗の木をめぐる文化の話。
場合によってはコルシカまで行き、現地の大きな栗の木を見に行く。
これは単なる趣味ではなく、はっきり“姿勢”です。
アクト・ローカリー(ローカルで行動する)
シンク・グローバリー(グローバルに考える)
世界を見るからこそ、土地に根を下ろす。
ローカルをやるからこそ、世界が見える。
この往復運動が、次の時代の生き方の型になる――そんな示唆がありました。
まとめ:共生進化ネットが半年で掘り当てた「未来のヒント」
今回の中間報告回は、まとめというより“再発見”でした。
ゲストが違っても、通底していたのはこれです。
- 視覚偏重の時代に、聴覚・触覚・味覚を取り戻す
- 分断された感覚(絵と音、理屈と身体)をつなぎ直す
- 世界を見る一方で、土地に根ざすローカルもやる
そして番組はここで終わりではなく、次へ続きます。
次回以降も、世界の見方を更新してくれるゲストが控えている。
リアルイベントも視野に入れ、支援の仕組み(ソサエティ)も整え、短尺動画も増やしていく――そんな話もありました。
情報過多の時代に、必要なのは「知識」ではなく、
どの感覚で世界を捉えるかなのかもしれません。
共生進化ネットがやろうとしているのは、
“未来の話”をしているようで、実は――
人間の感覚を取り戻す話
だったのだと思います。
