| 開催日 | 2026年5月10日 |
| コメンテーター | 稲本 正 |
「誰かが用意した正解を追うのではなく、自分のやっていることを正解にしていく。」
これは、アウトドアブランド モンベル 創業者・辰野勇さんが語った、とても印象的な言葉です。
今回の「共生進化ネット」では幼少期の原体験から、冒険、ものづくり、経営、そして“人生の目的”に至るまで、深い対話が繰り広げられました。
そこには、単なるアウトドア論ではない「どう生きるか」という本質的な問いがありました。
“10歳までの体験”が、その人の常識を作る
対談の中で辰野さんは「人にとっての常識は、10歳頃までの原体験によって形作られる」と語ります。
戦後の8人兄弟という家庭環境の中で育ち、自身は体が弱かったという辰野氏。みんなで遊ぶより、一人で工夫しながら遊ぶ子どもだったそうです。
当時はおもちゃも少なく、鉛筆一本でも遊び道具になった時代。
完成されたものを与えられるのではなく、“自分で作る”ことが当たり前だった。その経験が、後のものづくりや会社経営につながっていると言います。これは非常に興味深い話です。
現代は、完成されたサービスや情報に囲まれています。しかし、ゼロから何かを作る経験は、人の発想や価値観を根本から変えてしまう力があるのかもしれません。
「好きなことしかできない人」が、新しいものを作る
対談の中で特に印象的だったのが「努力」の捉え方です。
辰野氏は、脳科学者・ 中野信子 氏の言葉を引用しながら、こう語ります。
好きなことしかできない人間は、誰かが用意した正解を探すのではなく、自分がやっていることを正解にしていく。
これは、既存のレールに乗る人間ではなく「まだ存在しないもの」を作る人間の思考です。
実際、モンベルも最初から“常識外れ”だったと言います。
普通なら、
- おもちゃ会社はおもちゃだけ
- 建築会社は建築だけ
というように、事業領域を絞ります。
しかし彼らは、
- おもちゃも作る
- 建築もやる
- アウトドアもやる
という形で、「好き」と「必要」を横断していった。当然、「そんなことをしたら潰れる」と言われたそうです。
しかし、結果として今も残っている。
これは、“前例のある正解”をなぞるのではなく、“自分たちで正解を作った”例だと言えるでしょう。
人口の0.3%しかいない「冒険する人」
対談では、「冒険する人間」の割合についても語られました。
ある心理学者の研究によれば、
命をかけてでも、人のやらないことをやりたい
と考える人間は、全人口のわずか0.3%しかいないそうです。
残りの99.7%は、安全で快適な生活を求める。
辰野氏は、この“0.3%”こそが、文明や文化を前へ進めてきた存在ではないかと語ります。
確かに、人類の歴史を振り返れば、
- 海を渡った人
- 山を越えた人
- 未知の土地へ向かった人
は、常識的に考えれば「危険な変わり者」だったはずです。
それでも、その“変わり者”がいたからこそ、人類の世界は広がっていった。
この話は単なる冒険論ではなく「挑戦する人間の存在意義」を示しているようにも感じました。
山には“勝ち負け”がない
辰野氏は、山登りには競技スポーツとは違う価値があると語ります。
オリンピックのような競技には勝敗があります。しかし、山には基本的に勝ち負けがありません。誰かを倒すわけでもなく、自分自身と自然に向き合う世界です。だからこそ、登山には“文学”がある。山を登って終わりではなく、その経験を書き残すことで初めて完結する。
実際、多くの登山家が文章を残してきました。
山には、単なるスポーツでは終わらない「物語」が存在しているのです。
「レンガを積む」のではなく、“大聖堂”を作る
対談終盤では、有名な「3人のレンガ職人」の話も登場しました。
同じ作業をしていても、
- ただレンガを積んでいる人
- 壁を作っている人
- 大聖堂を作っている人
では、人生の意味がまったく違う。
辰野氏は、
リーダーの仕事とは、
“今やっていることが、何につながっているのか”を示すこと
だと語ります。
売上や利益は大切です。しかし、それは“手段”であって、“目的”ではない。
何のためにやるのか。どんな未来につながるのか。
そこに、人は共感し、仲間になっていくのだと思います。
「好き」を続けた先にしか、見えない景色がある
今回の対談全体を通して感じたのは「好きなことを続ける」という行為は、単なる自己満足ではないということでした。
好きだから続けられる。
続けるから深くなる。
深くなるから、まだ誰も見ていない景色にたどり着ける。
そして、その先に初めて“社会的な価値”が生まれる。
モンベルの「7つのミッション」も、最初から理念として存在していたわけではなく、長年自然と向き合い続けた結果、“あとから気づいた”ものだったと言います。これは非常に示唆的です。
理念は、最初から作るものではなく「生き方の積み重ねから浮かび上がるもの」なのかもしれません。
まとめ
今回の対談は、アウトドアや登山の話でありながら、本質的には「人生論」だったように感じます。
- 自分の原体験
- 好きなこと
- 人と違うことへの恐れ
- 挑戦する意味
- 仲間と共有するビジョン
それらがすべて繋がっていました。
そして最後に残ったのは、
「誰かの正解を探すのではなく、自分の人生を正解にしていく」
という、とても力強いメッセージでした。
