| 開催日 | 2026年6月21日 |
| ゲスト | 長澤忠徳さん |
| コメンテーター | 稲本 正 |
「文化を作ろう」と考えたことはありませんか。
地域を盛り上げたい。
新しい価値観を広めたい。
社会を少しでも良くしたい。
しかし、長澤忠徳さんはこう語ります。
「文化そのものを作ることはできない」
では、人は何ができるのでしょうか。
共生進化ネットの対談で語られたのは、文化を育てるための仕組みづくり、教育のあり方、そして人と人との信頼についてでした。
世界へ飛び込んだから見えたもの
長澤さんは若くして海外へ渡り、ロンドンを拠点に活動を続けてきました。異国の地でゼロから人間関係を築くことは決して簡単ではありません。しかし、その経験を通じて得た最大の財産は「人とのつながり」だったといいます。
自分を可愛がってくれた先輩たち。
無謀な挑戦を見守ってくれた仲間たち。
そうした人々との出会いが、新たな人脈を呼び、次の機会へとつながっていきました。
振り返れば、キャリアとは能力だけで築かれるものではなく、人との関係性の中で育まれていくものだったのです。
コンビビアリティという考え方
長澤氏が近年大切にしている言葉に「コンビビアリティ(Conviviality)」があります。
これは単なる協力や共存ではありません。人と人が自然につながり、お互いを刺激し合いながら新しい価値を生み出していく状態を指します。効率だけを追い求める社会ではなく、人間らしい交流の中から創造性が生まれる社会。
その考え方こそが、長澤氏が長年取り組んできた活動の根底にあります。
カルチュラルエンジニアリングとは何か
長澤氏は自身の活動を「カルチュラルエンジニアリング」と呼んでいます。
文化工学とも訳せるこの考え方は、文化そのものを作るのではなく、文化が生まれるための仕組みを社会に実装することを意味します。
例えば、新しいサービスやプロジェクトを立ち上げたとしても、それだけで文化にはなりません。
しかし、それが人々の暮らしに溶け込み、
「なくなると寂しい」
「あるのが当たり前」
と感じられるようになったとき、初めて文化になるのです。
だからこそ、創り手にできることは文化の種をまくこと。
文化そのものを支配することではなく、育つ環境を整えることなのです。
日本に足りないのは「定着させる力」
日本には優れた技術があります。
優れた職人もいます。
素晴らしいアイデアも数多く存在します。
しかし長澤さんは「社会に定着させる力」が弱いと指摘します。
日本人は物事を丁寧に磨き上げることには長けています。
一方で、その価値をわかりやすく伝えたり、共感を生み出したりする部分はまだ十分ではありません。
重要なのは「理解してもらうこと」ではなく、「共感してもらうこと」。
人は理屈だけでは動きません。
心が動いたときに初めて行動へとつながります。
信頼が技術を普及させる
長澤さんは興味深い例として、エレベーターの歴史を紹介しました。
エレベーター自体は昔から存在していました。
しかし、人々は乗りませんでした。
なぜなら「もし落ちたらどうするのか」という不安があったからです。
技術が不足していたのではありません。
信頼が不足していたのです。
安全装置や通信手段が整備され、人々が安心できるようになって初めて普及しました。
文化も同じです。
どれほど優れたものでも、人々の信頼を得られなければ社会には広がりません。
教育は「答え」ではなく「問い」を育てる
長澤さんが立ち上げた全国高等学校デザイン選手権大会には、大きな特徴があります。
それは課題を与えないことです。
テーマはただ一つ。
「課題発見」
高校生自身が地域を観察し、社会を見つめ、自ら問いを見つけます。
これまでの教育は、与えられた問題を正しく解く力を重視してきました。
しかし現代社会で必要なのは「何を問いにするか」を考える力です。
長澤さんは、高校生の感性や観察力をもっと信頼すべきだと語ります。
教える人から、学びを支える人へ
長澤さんは国際教育プロジェクトで学生たちにこう宣言しました。
「私たちは教えることをやめた」
代わりに、
「学ぶことを支援する」
側に回ったのです。
最初は戸惑っていた学生たちも、やがて自分で考え、自分で判断するようになります。
「教えてください」
ではなく、
「ここまで考えたのですがどう思いますか」
という対話へ変わっていくのです。そこに主体的な学びが生まれます。
ティータイムは最高の学習装置
長澤氏が特に面白い事例として紹介したのが「ティータイム」です。
お茶を飲みながら雑談する時間。
一見すると休憩にしか見えません。
しかし実際には、最も活発な議論や情報交換が行われる場でもあります。
イギリスでは、戦場でさえティータイムが設けられていました。
そこには単なる水分補給以上の意味があります。
お茶を淹れる行為には、
「あなたを歓迎しています」
というメッセージが込められているのです。
だからこそ、ティータイムは人をつなぎ、新しい発想を生み出す装置として機能してきました。
次世代へ何を残すのか
環境問題、人口問題、戦争、AIの進化。
私たちは大きな変化の時代を生きています。
長澤氏は、これから最も重要なのは次世代への継承だと語ります。
知識を渡すだけではありません。
問いを持つ力。
創造する力。
人とつながる力。
そうしたものを未来へ受け渡していくことが必要なのです。
文化とは、誰かが作るものではありません。
人と人との関係の中で育ち、受け継がれ、やがて社会の一部になります。
だからこそ今、私たちに求められているのは、文化を支配することではなく、文化が育つ場をつくることなのかもしれません。
