登山家・野口健さんの娘として、幼い頃から山や自然に親しんできた野口絵子さん。
そんな絵子さんが新たに挑戦したのが「ミス日本」です。
しかも結果は、「ミス日本グランプリ」と「ミス日本『海の日』」のダブル受賞。山の世界を歩んできた絵子さんが、なぜミス日本を目指したのでしょうか。
今回の「共生進化ネット」では、野口健さん、野口絵子さん、コメンテーターの稲本正さんが、ミス日本への挑戦から環境教育、日本の食文化まで幅広く語りました。
「ミス日本=外見を競う大会」ではなかった
絵子さんがミス日本に興味を持ったのは、大会のおよそ1年前。
たまたまミス日本の関係者と話す機会があり、「ミス日本を受けてみませんか」と声をかけられたことがきっかけだったそうです。
それまで絵子さん自身も、「ミス」と聞くと、外見の美しさを競うコンテストというイメージを持っていました。
しかし、実際に話を聞いてみると、その印象は大きく変わります。
ミス日本は1950年から続く歴史あるコンテストであり、ファイナリストに選ばれた女性たちは、大会までの約半年間にわたってさまざまな勉強会に参加します。
その回数は約28回。
日本文化や歴史だけでなく、外交や防衛など、学ぶテーマは非常に幅広いものでした。
絵子さんにとって、この「学び」こそがミス日本に挑戦したいと思った大きな理由の一つでした。
父・野口健さんが知ったのは、ファイナリストになってから
意外なことに、父親である野口健さんは、娘がミス日本に応募していたことを最初から知っていたわけではありません。
書類選考や地区大会を経て、絵子さんがファイナリストに選ばれてから知ったそうです。
絵子さんとしては、先に説明しても父親が持っている「ミス日本」のイメージから反対されるかもしれない。それならば、まず実際に何をしている大会なのかを見てもらおうと考えていました。
一方の健さんも、ミス日本について「あまり考えたことがない、自分の人生とはまったく関係のない世界だった」と振り返ります。山を中心に歩んできた父と、その世界から少し外へ踏み出そうとする娘。
この親子らしい距離感も、今回の対談の面白いところです。
予想できない質問に、自分の経験で答える
ミス日本の大会では、1分間のスピーチと質疑応答が行われます。
スピーチは事前に準備できますが、質疑応答では何を聞かれるのか分かりません。
そこで絵子さんが準備したのが、自分自身の経験をもとにした「いくつかのストーリー」でした。
一つの経験から、環境、教育、日本文化など、さまざまなテーマへ話を広げられるように準備していたのです。
単純に回答を丸暗記するのではなく、「自分が実際に経験したこと」を引き出しとして持っておく。
だからこそ、予想外の質問に対しても、自分自身の言葉で答えることができました。
「あなたが見つけた美しさを、ポーズで表してください」
大会で絵子さんに投げかけられた質問の一つが、とてもユニークなものでした。
ミス日本では「内面」「外見」「行動」という三つの美しさを大切にしています。
そのうえで「勉強会を通して、その三つの先に見えたあなたの美しさは何ですか。そして、それを一つのポーズで表してください」という課題が出されたのです。
ダンスなどを経験しているファイナリストが華やかなポーズを見せる中、絵子さんが選んだのは
―苗を植えるポーズでした。
一見すると、とても地味な動作です。
しかし、そこには絵子さん自身が積み重ねてきた経験と考えが詰まっていました。
失われたものを、もう一度育てていく
絵子さんはこれまで自然と関わる中で、日本人が大切にしてきた「森と共に生きる」という考え方に触れてきました。
そしてミス日本の勉強会では、歴代のミス日本や講師たちから、日本文化や日本人の考え方について学びました。
教えてもらった以上、今度は自分たちが次の世代へ伝えていく。
失われつつあるものがあるのなら、もう一度育てていく。
そんな思いを「苗を植える」という一つの動作に込めたのです。
実際に田畑に入り、自然に触れてきた絵子さんだからこそ生まれた表現でもありました。
稲本さんも、単なる思いつきのポーズではなく、本人の実体験から出てきたものだからこそ説得力があったのではないかと語ります。
山の人が、なぜ「海の日」に?
そして絵子さんは「ミス日本グランプリ」と同時に、「ミス日本『海の日』」にも選ばれました。
山と深く関わってきた野口親子だけに、「なぜ山ではなく海なのか?」という疑問も浮かびます。
しかし、そこにはミス日本側の意図がありました。
絵子さんはすでに山について多くのことを知っています。だからこそ、さらに活動の幅を広げるために、今度は「海」を知ってほしい。
すでに詳しい分野を任せるのではなく、知らない世界へ送り出すことで、その人自身の可能性を広げていくという考え方です。
「海の日」になったら、まず船舶免許を取る
「ミス日本『海の日』」に選ばれると、2級小型船舶操縦士免許の取得が求められます。ただ海について語るだけの「広報役」ではなく、まず自分自身が海へ出て、海を知る。
絵子さん自身、実際に船に乗ったことで、陸から眺めているだけでは分からなかった海の景色に出会いました。特に横浜について、それまでは「港町」という印象が強かったものの、海側から眺めることで、穏やかで美しい場所だと感じたそうです。
山ばかり教えてきた父・健さんに対して、絵子さんは冗談交じりに「今、反抗期なんです」と語ります。山を捨てて海へ行ったのではありません。
山を知っているからこそ、今度は海を知る。その経験が、自然を見る視野をさらに広げています。
環境を学ぶことは、「食」を学ぶことでもある
絵子さんの関心は、山や海だけにとどまりません。大学では米作りにも取り組み、日本の水産業についても学んでいます。
その根底にあるのが、「日本の食文化を守りたい」という思いです。
たとえば、私たちは当たり前のように「旬の野菜」という言葉を使います。
しかし、その野菜がどのように育ち、なぜその季節においしくなるのかを知らないまま、「旬だから」と食べていることも少なくありません。
だからこそ絵子さんが構想する環境学校では、自然について座学で学ぶだけではなく、実際に植え、育て、料理し、食べるところまで体験することを大切にしています。
さらに、その土地ならではの食文化を知ることで、地域の文化そのものを次の世代へつないでいこうと考えています。
「いただきます」に込められた意味
対談の終盤では、「いただきます」という言葉についても話が広がりました。
食事は、お金を払えば完成するものではありません。
農家や漁業者をはじめとする多くの人々、そして植物や動物、自然そのものから命をいただくことで、私たちの食卓は成り立っています。つまり「いただきます」とは、単に料理を作ってくれた人だけに向けた言葉ではなく、自然や生き物を含めた、食に関わるすべてへの感謝でもあります。
環境教育と食育は別々のものではありません。自然の中で作物を育て、それを食べるところまで経験することで、「自然と人間がどうつながっているのか」が実感として見えてきます。
山から海へ、そして次の世代へ
山で育ってきた野口絵子さんが、ミス日本への挑戦をきっかけに海へ出る。
一見するとまったく違う世界への挑戦に見えます。
しかし、その根底に流れているものは共通しています。
自然を知ること。
自分自身で体験すること。
そして、そこで得たものを次の世代へ伝えていくこと。
「苗を植える」というポーズは、まさにその姿勢を象徴しているのかもしれません。
山だけでも、海だけでも、農業だけでもありません。
自然、食、文化、教育はすべてつながっています。
自分がすでに知っている世界だけにとどまらず、知らない世界へ一歩踏み出してみる。その経験が、これまで見えていなかったものを見せてくれるのではないでしょうか。
今回の対談は、野口絵子さんのミス日本への挑戦を通して「学ぶとは何か」「自然を次の世代へ伝えるとはどういうことか」を改めて考えさせてくれる内容となりました。
