| 開催日 | 2026年9月20日 |
| ゲスト | 成澤由浩さん |
| コメンテーター | 稲本 正 |
環境に良い食材や、自然を大切にする暮らし。
その価値を知っていても「我慢して続けるもの」と感じてしまえば、なかなか広がりません。成澤由浩さんと稲本正さんが語ったのは、食べる喜びを入口に、人と人、そして人と自然とのつながりを育てていくことでした。
おいしさは、国境を越える共通言語
成澤さんのレストランには、世界各地からお客様が訪れます。海外からのお客様は全体の8~9割ほど。アメリカをはじめ、南米、ヨーロッパ、アジアなど、出身地もさまざまです。
食文化や好みが違う人たちに料理を届けるうえで、成澤さんが大切にしているのは、まず「おいしい」と感じてもらうことです。料理に込めた思いを理解するために、無理をして食べてもらうのではありません。一口食べておいしいと思う。その体験があるからこそ、「この料理はどうやって生まれたのだろう」と、背景にも関心が向きます。
稲本さんも、環境に良いものを広めるには、おいしさが欠かせないと語ります。体や環境に良いからといって、食べる人に我慢を求めるだけでは、多くの人には届きません。
おいしく食べられて、自然にも良い。その両方を目指すことが大切なのです。
一皿の向こうに、生産者と土地の物語がある
料理の魅力は、出来上がった一皿だけで決まるものではありません。
成澤さんによると、海外の料理学会では、新しいレシピとともに、その料理に込めた考えや生まれた背景まで発表します。どのような土地の食材を使い、誰がどんな思いで育てたのか。料理人自身の経験や、その国の文化も含めて共有するのです。
成澤さんのレストランにも、料理を味わう前から、その考え方や生産者との関わりを調べて訪れるお客様がいます。
とはいえ、食事の席で最初から多くを説明する必要はありません。料理を食べて「なぜ、こんなにおいしいのですか」と尋ねられたとき、旬の食材や生産者の仕事について話す。おいしさが、食材の向こう側にいる人たちへの関心を開いてくれます。
昔の知恵と新しい技術を、食卓で生かす
料理の技術は進歩しています。温度や湿度を細かく管理できる調理器具もあります。それでも、土鍋で直火炊きにしたご飯や、薪・炭で焼いた料理には、ほかでは得がたい魅力があります。
成澤さんは、新しい技術を取り入れながら、昔から受け継がれてきた調理法にも目を向けています。薪や炭を使った料理は、日本だけでなく世界各地にあります。火で食材を焼くという、人間が長く親しんできた方法だからこそ、異なる文化の人たちにも通じるおいしさがあるのかもしれません。
稲本さんは、昔の道具や調理法を実際に試すことにも意味があると話します。作ってみることで、かつての人々がどれほど手間をかけ、工夫を重ねていたのかが見えてきます。
経験から得た感覚を大切にしながら、現代の技術でも確かめてみる。その積み重ねから、新しい料理の可能性が生まれます。
発酵は、その土地の自然とともに育つ
土地の環境と食が深く結びついている例が、発酵です。
気温や湿度、そこで手に入る食材によって、発酵食品の姿は変わります。チーズやヨーグルト、ザワークラウトなど、発酵の文化は世界各地にあります。日本でも、醤油、味噌、日本酒などが長い時間をかけて育まれてきました。
それぞれの土地で手に入るものを使い、よりおいしく食べるために工夫する。発酵食品には、自然の条件と人々の探究心が重なっています。
自然との関わりを、食べることから取り戻す
日本の食材を日本で使うことは、その土地の農家や生産者の仕事に目を向けることにもつながります。一方で、農地や森を守り、育て、適切に使い続けるには、人の手と時間が必要です。
稲本さんと成澤さんは、自然に関わる人を増やすことの大切さについても語りました。食卓に届いた一皿から、食材を育てる人や、土地の環境に関心を持つ。そうした小さなきっかけが、自然との関係を考え直す第一歩になります。
料理には、味や香り、食感のように、数字だけでは伝えきれない価値もあります。だからこそ、まずは食べて、おいしいと感じることが大切です。
「おいしい」の先に、誰が作ったのか、どこで育ったのかという問いが生まれます。その問いを重ねることが、人と自然がともに生きる未来につながっていくのではないでしょうか。
