戦争、シベリア抑留、そして“自分の軸”へ―竹下景子さんが語る、生き方の原点


戦争、シベリア抑留、そして“自分の軸”へ―竹下景子さんが語る、生き方の原点

今回のテーマは、女性の生き方にとどまらず、「人はどう生きるのか」という普遍的な問いです。

対談では、竹下さんの生い立ちから、ご家族が経験した戦争の記憶、大学時代に培われた人格形成の土台、そして俳優としての歩みまで、静かでありながら深い言葉で語られました。そこには、今の時代を生きる私たちにとって大切な示唆が数多く含まれていました。

名古屋で生まれた背景にあった、父の過酷な戦争体験

竹下さんは名古屋市の生まれです。お母様が名古屋のご出身で、お父様は長崎県佐世保の生まれでした。

お父様は大正生まれで、若い頃に中国大陸への憧れを抱き、学びの道へ進んだのち、そのまま戦争へ赴きました。しかし、配属から間もなく終戦を迎え、その後はシベリアに抑留されることになります。3年間にわたる抑留生活を経て帰国できたものの、戦後の日本では仕事を見つけるのも容易ではありませんでした。

そうした厳しい状況の中で、お父様は名古屋へ移り住み、お母様と出会い、家庭を築かれました。竹下さんが名古屋で生まれ育った背景には、こうした戦争の傷跡と、それでも生き直そうとしたご家族の歴史がありました。

戦後を生き抜いた父の姿が、家族の土台になった

帰国後、お父様は名古屋で職を探し、最終的には税務署に勤めることになったそうです。徴収の仕事は精神的にも厳しく、決して楽な仕事ではありませんでした。それでも生活を支え、家族を守るために働き続けたといいます。

竹下さんの語りからは、父親の人生をただ「苦労した人」としてではなく、時代の荒波を受け止めながらも前に進んだ一人の人間として見つめていることが伝わってきました。戦争体験そのものを多く語らない世代だったからこそ、その沈黙の奥にあった重みもまた感じさせられます。

「外の世界へ行きたい」思いが東京女子大学へつながった

竹下さんは、自分の小さな世界から飛び出したいという思いから、県外の大学を目指しました。そうして進学したのが東京女子大学です。

東京女子大学は、キリスト教精神に基づくリベラルアーツ教育を重んじる大学です。竹下さんはそこで、知識を得るだけではなく、「人格を育てる教育」に触れたと語ります。

神との関係という縦の軸、社会や他者との関係という横の軸。その両方の中で自分をどう位置づけるかを考えることが、人としての土台をつくる。そうした教育理念は、後の竹下さんの生き方にも大きな影響を与えたようです。

学生時代にはそれを強く自覚していたわけではなくても、振り返ってみると、その空気の中に身を置けたこと自体が大きな財産だったと話されていました。

『北の国から』で学んだ、「演じる」のではなく「そこにいる」こと

俳優としての歩みの中で、特に印象深く語られたのが『北の国から』での経験です。北海道・富良野の自然の中で長年にわたって続いたこの作品は、竹下さんにとっても特別なものだったようです。

倉本聰さんから繰り返し言われたのは、「悲しいふりをするな」「寒そうな芝居をするな」という言葉でした。演技で説明しようとするのではなく、その場に本当に存在することが大切だという教えです。

これは俳優の仕事に限ったことではないのかもしれません。取り繕ったり、わかりやすく見せようとしたりするのではなく、まず自分がそこにしっかり立つこと。その姿勢こそが、人に伝わるものを生むのだと感じさせられます。

情報が多すぎる時代だからこそ、「自分の判断軸」が必要になる

対談では、今の若い世代が生きる難しさについても話が及びました。先の見えない社会、不安を煽るほどにあふれる情報。その中でどう生きるかという問いに対して、竹下さんは「情報が多すぎるのではないか」と語ります。

見なくてもいいものまで見てしまい、聞かなくてもいい不安まで受け取ってしまう。そんな時代だからこそ、自分なりの判断軸を持つことが大切になるのだと思います。

その軸は、頭の中だけでつくられるものではありません。実際に現場へ行くこと、人に会うこと、自分で感じること。そうした体験の積み重ねが、揺らぎにくい土台をつくっていくのだと、対談全体を通して伝わってきました。

現場に行くことでしか見えないものがある

竹下さんは、WFPの活動を通じてアフリカを訪れた経験にも触れました。行く前は、食べるものもなく苦しんでいる人々を思い浮かべていたそうです。しかし、実際に現地で出会った子どもたちは明るく、生き生きとしていて、歓迎の気持ちを全身で表してくれたといいます。

そこで感じたのは、「かわいそう」という一言では決してくくれない現実でした。外から想像していた姿と、現場で出会った姿は違っていたのです。

このエピソードはとても象徴的です。私たちはつい、情報やイメージだけで物事を判断してしまいがちです。しかし、本当に大切なことは、行ってみて、見て、感じてみなければわからないのだと思います。

やる前に悩みすぎないことが、次の一歩を生む

対談の終盤では、「まず動いてみること」の大切さも語られました。書くことも、学ぶことも、表現することも、最初から完璧である必要はありません。むしろ、始めてみることで見えてくることのほうが多いのかもしれません。

やる前に悩み続けるより、まず一歩踏み出してみる。そこから先の景色が変わっていく。竹下さんの人生にも、そうした自然な前進の積み重ねがあったように感じます。

生き方のヒントは「大きな答え」より「確かな軸」にある

今回の対談で印象に残ったのは、竹下景子さんの言葉が終始穏やかでありながら、その奥に確かな芯が通っていたことです。

戦争の記憶を背負った家族の歴史。人格を育てる教育との出会い。俳優として現場で学んだ「存在する」ことの意味。そして、世界の現場で見た、人間のたくましさ。

それらを通して浮かび上がってきたのは、「どう生きるべきか」という大きすぎる答えではなく、「自分の軸をどう育てるか」という、もっと地に足のついた問いでした。

情報に振り回されやすい時代だからこそ、自分で見て、自分で感じ、自分で考えること。その積み重ねが、生き方を支える力になるのだと、改めて感じさせられる対談でした。

次回は、愛知万博にも関わるお話へと続いていきます。そこでもまた、竹下さんならではの視点が聞けそうです。