「自然は人生の先生だった」─市毛良枝さんと稲本正が語る、豊かに生きるためのヒント

俳優として第一線で活躍しながら、登山や自然保護活動にも長年取り組んできた市毛良枝さん。今回は稲本正との会話を通して「自然」「人生」「仕事」「教育」について、興味深い考えが語られました。

芸能界の話から始まった対談は、やがて植物の生き方や、人が幸せに暮らすための価値観へと広がっていきます。

一本の本から始まった、不思議なご縁

対談の冒頭では、稲本さんの著書をきっかけにドラマ化の企画が持ち上がったエピソードが紹介されました。ドラマ制作では、本物らしい森や古民家を再現するために何度も現場で意見を交わしたそうです。

実際の撮影では、冬の飛騨・高山を舞台に、古い農家を改修したセットも使用されました。当時としては映像技術にも限界がありましたが、多くのスタッフの工夫によって作品世界が作り上げられていったと振り返ります。

人生を変えるのは、若い頃の体験

話題は学生時代へ。

立教大学の歴史ある建物や、美しいキャンパスに惹かれて入学したという稲本さん。一方、市毛さんも学生時代を過ごした寄宿舎や教会音楽、美しい木造建築が現在の感性に大きな影響を与えたと語ります。

さらに二人は「15歳から25歳くらいまでの経験は、その後の人生を大きく左右する」という話題でも意気投合しました。

好きな音楽、建築、自然との出会い—そうした青春時代の体験が、大人になってからの価値観や人生そのものを形づくっているのです。

芸能界にいても”普通”であり続ける理由

長年俳優として活動してきた市毛さんですが、今でも学生時代の友人との交流を大切にしています。

その理由について、市毛さんは次のように語りました。

「友人たちとの感覚がずれてしまったら、自分がおかしくなっていると思うようにしているんです。」

華やかな世界に身を置いていても、日常感覚を失わないこと。
それが長く自然体で活動を続けられる理由なのかもしれません。

稲本さんも、有名になることによって周囲との距離感が変化する難しさを経験してきたと言います。
テレビ出演などで顔が知られるようになると、街中で声を掛けられる機会も増えます。しかし、それによって自分自身の感覚が少しずつ変わってしまう怖さもあると振り返りました。

「向いていること」を知ることが人生を楽にする

対談では「自分の器を知ること」についても話が及びました。

市毛さんは、

「180cmの美女にはなれません。だから、この自分だからこそできることを楽しもうと思っています。」

と笑顔で語ります。

稲本さんも、会社経営で成功を収めた経験から「必要以上に高望みをすると、かえって苦しくなる」と話しました。
自分の得意なことを見極め、その範囲で最大限力を発揮する。その姿勢こそが、長く充実した人生につながるのかもしれません。

植物は、人間よりずっと賢い?

後半では話題が植物へ。

稲本さんは、近年の植物研究について紹介しました。
木々は枝同士が近づき過ぎないよう、お互いに成長を調整し、適度な距離を保っていることが分かってきています。

これは「クラウン・シャイネス(Crown Shyness)」と呼ばれる現象です。

さらに、植物は香りや菌類(菌根菌)などを介して情報を伝え合っていることも、研究によって明らかになりつつあります。

市毛さんも「山にいると、植物同士が何かで会話しているように感じます」と語り、自然の中で過ごすことで得られる感覚の大切さを話しました。

自然体とは、「今いる場所で生きること」

対談の終盤では「自然体」という言葉の意味についても語られました。

植物は、自分で生える場所を選べません。
それでも与えられた環境の中で根を張り、光を求めながら精一杯生きています。

稲本さんは「人間も植物のように、自分の立っている場所でしっかり根を張ることが大切なのではないか」と語ります。
市毛さんも、山と出会ったことで「自分の居場所はここだった」と感じた経験を振り返りました。

幼い頃に自然の中で育った記憶が、大人になって山に登ったときによみがえり、自分自身を見つめ直すきっかけになったそうです。

子どもたちには、もっと自然を

最後は教育の話題へ。
自然の中で遊ぶ経験は、知識だけでは得られない感性を育ててくれます。

しかし現在は、安全面や学校運営の事情から、子どもたちが自然に触れる機会は以前より少なくなっています。
二人は「もっと子どもたちを自然の中へ連れ出してほしい」という思いで一致しました。

植物や森から学べることは、教科書以上にたくさんあります。
環境問題や平和について考えるためにも、まず自然を好きになること。

それが未来への第一歩なのかもしれません。

まとめ

今回の対談では、俳優と木工家という異なる人生を歩んできた二人が「自然」という共通のテーマを通して人生観を語りました。若い頃の経験、自分らしく生きること、背伸びをしないこと、そして自然から学ぶこと。

どれも特別なことではありませんが、日々の暮らしを見つめ直すヒントにあふれています。

自然は、私たちに多くを語りません。
しかし静かに耳を傾ければ、生き方そのものを教えてくれる先生なのかもしれません。