| 配信日 | 2026年9月27日 |
記録的な暑さや大型台風、山火事、水環境の変化・・・。
近年、私たちの身の回りでは、これまでとは明らかに違う環境の変化が次々と起きています。それは日本だけの話ではありません。世界各地で異常な暑さや自然災害が発生し、地球規模で環境の変化が進んでいます。
こうした状況を前に、私たちはこれからどのような社会をつくっていけばよいのでしょうか。
そのヒントは、意外にも私たちのすぐそばにある「自然」の中に隠されているのかもしれません。
今回は、共生進化ネットの稲本正が、森や植物の世界、そしてさまざまな分野の専門家との対話から見えてきた「共生進化」と、これからの社会のあり方について考えます。
私たちは今、どこに向かっているのでしょうか
現在、世界ではさまざまな環境問題が表面化しています。
ヨーロッパでも40度近い気温が観測されるなど、かつての常識では考えにくかった現象が起きるようになりました。
さらに2030年のSDGs達成に向けた取り組みについても厳しい見通しが示され、2050年に向けては環境問題だけでなく、AIをはじめとする技術の急速な発展など、社会そのものを大きく変える課題も待ち受けています。これまでと同じ価値観、同じ社会の仕組みを続けていくだけで、本当に未来を切り開くことができるのでしょうか。今こそ、これまでとは違った視点から「新しい出口」を探す必要があります。
森は巨大なネットワークでできています
稲本がそのヒントの一つとして注目しているのが「森」です。
植物は、ただその場に生えているだけの存在ではありません。
地中に根を張り、微生物と関わりながら生きています。そして周囲の植物とも影響し合いながら、複雑な生態系をつくり上げています。
一本の木だけを見るのではなく、森全体を見てみると、そこには巨大なネットワークが存在しています。
植物、昆虫、動物、微生物など、多様な生き物が互いに関係し合うことで、豊かな生態系が成り立っています。そして、その仕組みは非常に長い時間にわたって維持されてきました。
人間社会が「持続可能な社会」を模索している一方で、自然界でははるか昔から、さまざまな生物が関係し合いながら生き続けてきたのです。
そこには、私たちがこれからの社会を考えるうえで学ぶべきことが数多くあります。
自然との関係をもう一度つくり直す
人類はこれまで、自然から多くの資源を得ることで社会を発展させてきました。
しかし、その結果として自然環境への負荷も大きくなっています。
現在では「プラネタリー・バウンダリー」という考え方も広く知られるようになりました。地球環境には、人類が安全に活動を続けられる範囲があり、その限界を意識しながら社会をつくる必要があるという考え方です。
そこで重要になってくるのが「ネイチャーポジティブ」です。
単に自然破壊を減らすだけではありません。失われた自然を回復させ、生物多様性を豊かにしながら、人間と自然の関係そのものをつくり直していくことが求められています。
自然を利用するだけの存在から、自然とともに生きる存在へ。
私たち自身の価値観を変えていく必要があります。
「物が多い=豊か」なのでしょうか
稲本がもう一つ問いかけるのが、私たちが考える「豊かさ」です。
身の回りに物が増えるほど豊かになる。
高級なものを所有するほど幸せになる。
私たちは長い間、そうした価値観の中で暮らしてきました。
しかし、本当にそうでしょうか。
例えば、どれほど高性能な冷蔵庫を持っていたとしても、その中に入れる食べ物そのものが豊かでなければ意味がありません。
便利な製品やサービスが増える一方で、それを支えている自然環境が失われてしまえば、私たちの暮らしそのものが成り立たなくなります。
これから必要なのは、「何をどれだけ所有しているか」だけでは測ることのできない、新しい豊かさなのではないでしょうか。
中村桂子さんとの対話から広がった「共生進化」
稲本が「共生進化」という考えについて、さまざまな人と話してみようと考えたとき、最初に反応してくれた一人が、生命科学者の中村桂子さんでした。
生命科学の視点から「生きもの」を見つめてきた中村さんは、共生進化という考えにも理解を示しました。
そこを一つの出発点として、共生進化ネットでは、それぞれ異なる分野で研究や活動を続けてきた人々との対話が広がっていきます。
一つの専門分野だけから未来を考えるのではなく、生命、自然、動物、歴史、文化などを横断しながら考えていくこと。
それ自体が、「共生進化」を考えるうえで重要な試みとなっています。
山極壽一さんのゴリラ研究から考える「争わない」コミュニケーション
その一人が、長年にわたりゴリラを研究してきた山極壽一さんです。
山極さんのゴリラ研究から見えてくるのは、言葉だけに頼らないコミュニケーションのあり方です。
ゴリラは、人間のように言葉を使って意思を伝えるわけではありません。仕草や表情、距離感など、さまざまな非言語的な方法を使って互いにコミュニケーションを取っています。
興味深いのは、そうしたコミュニケーションが、集団の中で無用な争いを避けることにもつながっているという点です。
人間は高度な言語を持っています。
しかし、言葉を持っているからこそ対立することもあります。
ゴリラたちのコミュニケーションを見つめることは、人間同士がどのように関係を築き、共に生きていくのかを改めて考えるきっかけにもなります。
田中優子さんと考える、江戸時代の「循環する暮らし」
さらに、江戸文化を研究してきた田中優子さんとの対話からは、過去の日本社会にも「共生」のヒントが見えてきます。
江戸時代は鎖国下にあり、海外から大量の資源を輸入する現在のような社会ではありませんでした。
限られた資源の中で暮らしを成り立たせる必要があったからこそ、食べ物や生活用品をはじめ、さまざまなものを再利用し、循環させる仕組みが発達していきました。
しかし、人々は単に我慢して生活していたわけではありません。
限られた環境の中でも暮らしを楽しみ、浮世絵をはじめとする芸能や文化を発展させていきました。
「持続可能であること」と「豊かに生きること」は、必ずしも相反するものではありません。
江戸時代の人々の暮らしからは、現代の私たちが忘れかけている「豊かさ」の形を見つけることができます。
森、ゴリラ、江戸時代―異なる世界に共通するもの
- 森の生態系。
- 山極壽一さんが研究してきたゴリラの社会。
- 田中優子さんが見つめてきた江戸時代の暮らし。
一見すると、まったく異なるテーマです。
しかし、そこには共通するものがあります。
それは、一つの存在だけで完結するのではなく、周囲との関係を築きながら生きていくことです。
森では、多様な生物が関係し合うことで生態系が成り立っています。
ゴリラは、言葉だけに頼らないコミュニケーションによって仲間との関係を築いています。
江戸の人々は、限られた資源を循環させながら、その中で文化や楽しみを生み出しました。
そこには「共に生きながら豊かになる」ためのさまざまなヒントがあります。
競争だけではなく「共生」から未来を考える
これからの社会を考えるうえで、「共生」という視点はますます重要になっていくでしょう。
人と人だけではありません。
人と自然、人と動物、地域と地域、そして異なる価値観を持つ人々が、それぞれの違いを保ちながら関係を築いていくことが必要です。
自然界では、多様な生物が互いに影響を与えながら、長い時間をかけて環境に適応してきました。
人間もまた、周囲との関係の中で変化していくことができます。
それが、私たちが考える「共生進化」です。
「共生進化ネット」で新しい出口を探していく
「共生進化ネット」では、一つの分野だけに答えを求めるのではなく、さまざまな分野の専門家との対話を通じて、これからの社会について考えていきます。
中村桂子さんが見つめてきた生命の世界。
山極壽一さんが研究してきたゴリラとコミュニケーション。
田中優子さんが研究してきた江戸の文化と暮らし。
そして、稲本正が長年向き合ってきた森と自然。
それぞれの知識や経験をつなぎ合わせることで、これまで見えていなかった未来への道筋が見えてくるかもしれません。
答えは、一つではありません。
だからこそ、さまざまな人が考え、語り合うことに意味があります。
これからの社会をどのようにつくっていくのか。
自然とどのように付き合っていくのか。
そして、本当の「豊かさ」とは何なのか。
共生進化ネットでは、これからも多様な分野の方々とともに、その答えを探していきます。
